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2020-10-02 00:00
柿崎明二氏、菅首相補佐官就任に寄せて
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
9月29日、発足間もない菅政府が、閣議で首相補佐官に共同通信社前論説副委員長の柿崎明二氏(59歳)を充てる人事を決定したという報道を聞いて小生は愕然とした。柿崎氏は、小生と同じ昭和36(1961)年生まれであり、数年前偶然に新宿3丁目の飲食店で知り合った飲み友達だったからだ。10月1日、菅義偉首相から官邸で補佐官就任の辞令を受け取った柿崎氏は「メディアからの転身なので、色んな受け止め方があると思う。(批判等は)私も自覚している」と話したという。以下は、諸報道に接して思った小生の所感である。
新潮新書に黒川祥子氏の『同い年事典 1900~2008』(2009年)という書籍がある。1961年の項目をみると「未来の人か、過去の人か。オバマ大統領、コマネチ、C・ルイスに田原俊彦、石野真子、J・クルーニーなど」と解説がある。同年4月生から翌1962年3月生までの同級生をみると、スポーツマンにはバスケット選手のデニス・ロッドマン、陸上短距離の高野進やベン・ジョンソン、スピードスケートの黒岩彰、野球選手の牛島和彦や“ドカベン”香川伸行(故人)がいる。芸能界には役者の高橋克実、遠藤憲一、光石研、中井貴一、豊川悦司がおり、脚本家の三谷幸喜、タレントの“とんねるず”石橋貴明・木梨憲武と錚々たる陣容である。海外に目を向けても、英国のダイアナ妃(故人)や歌手のS・ボイルに豪州のギラード元首相、役者のM・J・フォックス、メグ・ライアン、J・キャリーがおり、変わり種は北朝鮮出身の金賢姫元死刑囚であり、「未来の人か、過去の人か」という解説は今もって色褪せていないと言えよう。しかも、彼らはほとんど来年に還暦(華寿)を迎え、柿崎氏も小生も例外ではない。
防衛省を中途退職した小生は馴染みの飲食店がひしめく新宿3丁目を訪れることが多く、そんな中で偶々知り合った飲食店の従業員が新たに開いたスナックで、当時まだ共同通信の記者(編集委員であったか)の柿崎氏と遭遇した。このスナックで互いに素面で会うことは少なく、いつも酩酊、泥酔していたように思う。しかし、やがて同い年ということが分かり、互いに自己紹介して意気投合するようになった。そんな中、小生は『情報戦士の一分 ある自衛隊分析官が歩んだ道』(私家版)を著し、柿崎氏にも進呈した。拙著の内容に興味を覚えた柿崎氏は「G社など続編の執筆・発刊をあたってみる」と言ってくれたが、結局うまくいかなかった。しかし、柿崎氏の主張に注目した小生は、彼の著書『「次の首相」はこうして決まる』(講談社現代新書 2008年)や『検証 安倍イズムー胎動する新国家主義』(岩波新書 2015年)を取り寄せて精読した。やがて、朝日新聞社が発行する『Journalism』(2016年4月号)の「特集 メディアは権力監視ができるのか」に寄せた「『国家権力の監視』は特別なものでない 必要なのはルーティンの取材の深化だ」という柿崎氏の論文に、その主張がほぼ表れていると小生は感じた。同論文の冒頭で「そもそも報道と権力監視は一体不可分のものである」と喝破し、早大卒業後入社した毎日新聞社における「サツ回り」(夜討ち朝駆けの警察取材)の体験を柿崎氏は詳細に語っており、これが彼の原点だとも感じた。そして、論文の末尾で柿崎氏は「・・地味で時に退屈でさえある通常取材(=ルーティンの取材)を、本来のあるべき姿に戻ってやり直してみること」が「(権力監視への)現実的な解決策のような気がしてならない」と主張した。今後、毀誉褒貶相半ばするとしても「政策評価、検証担当」首相補佐官としての柿崎氏の言動に注目していきたいと思う。
米国では、政権交代後の大量の閣僚・官僚人事において「リボルビング・ドア」と称し、多数の知識人、ジャーナリスト、企業家などが新政権入りし、大統領が交代すればまた政権から離れて元のポストに復帰していくことが普通である。しかし、日本では官僚を除き、政権入りした「色付き」の人材が元のポストに復帰することは稀である。柿崎氏は共同通信社を退職したとされ「退路」を断ったと小生は感じた。新宿3丁目界隈では、常に泥酔気味の柿崎氏を「カッキー」と親しみをこめて呼んでいたが、一連の報道に接して小生は「カッキー」に対し「補佐官就任おめでとう。(特ダネの)小倉さんが言ったとおりになった。ガースー(菅総理)を飼い慣らしてください。(政治家志望というが)次の選挙には出るの?無理しないでやってください」というお祝いメールを送ったが返信はない。
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