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2020-09-25 00:00
菅政権に対する高支持率の謎
倉西 雅子
政治学者
メディア各社が実施した菅新政権に対する世論調査の結果を見ますと、支持率が軒並み60%を超えています。菅新首相は、安倍長期政権にあって脇役のイメージが強く、つい数か月前までは、誰もが菅政権が誕生するとは予想もしていなかったことでしょう。少なくとも、菅新首相が国民の間で圧倒的な人気を博するようなカリスマ的な政治家であったとは言い難く、それ故に、発足時の支持率の異様な高さには違和感があるのです。ここで注目すべきは、総裁選で菅首相が掲げた政策です。対中融和政策や、国民や企業一般に過酷な変化を強いる新自由主義的な政策が並んでいながらも、国民の誰もが反対しないような‘看板政策’として携帯電話料金の値下げ、給付金の再配布が用意されていたのです。仮に、国民多数が菅政権を支持しているとしますと、一種の‘ばらまき’政策に対する支持表明ということになりましょう。そして、この現象から、今日の政治に関する幾つかの側面が読み取れるように思えます。
第一に、国民の多くは、政治家個人のパーソナリティーよりも、政策を基準として政権に対する支持・不支持を判断しているということです。国民の主たる関心は、自らの生活に直接、あるいは、間接的に影響を与える政策に向けられているのです。第二に指摘し得る点は、国民の大半が支持する政策が存在している点です。現状を不条理な状態と捉える、あるいは、不合理な状況にあると認識する場合には、国民の大多数が、その改善を政策として求めるのは、至極、当然のことなのです。例えば、国際標準に照らして明らかに割高となっている携帯電話料金の値下げといった政策がこれに当たります。こうした政策は、本来、与野党ともに実現すべき政策であり、全ての政党が公約として掲げるべきもとも言えます。現状では、国民が支持する政策を以って選挙における看板政策にしますと、‘早い者勝ち’、つまり、最初に言い出した候補者、あるいは、政党が有利となり、他の政党が同様の政策を打ち出すのが難しくなるのです。
第三に指摘し得る点は、凡そ100%の国民の支持を期待し得る‘看板政策’以外の政策については、必ずしも、民意に沿ったものではない点です。‘抱き合わせ販売’のような問題であり、有権者は、分野ごとに個別に政策を選択することができないのです。例えば、菅首相の場合には、「看板政策+親中政策+新自由主義政策」がセットにされています。もっとも、親中政策については、首相就任後に日米同盟の強化の方向に軌道修正しているようにも見受けられますが、外国人の入国規制も早々に一部を解除するとの報道もあり、無反省なグローバリズム推進の方針は継続されるかもしれません。
以上に述べてきましたように、菅政権の誕生は、奇しくも選挙において国民が選択をしているのは何か、そして、政策選択が主となるのであるならば、現行の制度は、国民の選択や要望に誠実に応える設計となっているのか、という制度上の根本問題を提起することともなりました。新政権は改革志向を表明しておりますが、政治制度改革こそ、日本国の民主主義体制を護るためにも急務の課題ように思えます。今日、‘人から政策’へと人々の政治的関心の重心が移動する時代にありまして、人類は、この変化に対応すべく、知恵を絞ってゆくべきではないかと思うのです。
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