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2020-09-02 00:00
(連載2)財政再建で高齢者の金融資産が犠牲に
中村 仁
元全国紙記者
海外の識者も、財政危機について、これまであまり見られなかった見解を強調しています。例えば「これまで浸透してきた『健全な財政を守る』という政策で最も恩恵を受けてきたのは誰だったかを考える必要がある」(FT紙/日経、ザンドブ氏、8/21)との主張です。このコラムの見出しも「財政責任論はコロナで幕」と激しい。「この30年間にわたり経済政策の方向性を支配してきた根本思想に最後のとどめが刺された」と。財政責任論は「財政赤字と公的債務を穏当な水準に維持することが責任ある政治家の証だった」ことを指し、それが終わったという。
「健全財政論」の恩恵を受けてきたのは、「資産を豊富に持つ者、資本を保有または支配して収入を得てきた者で、かれらに都合のいい考えだった」。「国の債務が増えると、民間の資本調達コストが上昇し、民間企業による投資が難しくなる・・・」。そのために健全財政が必要だったと。だから恩恵を受けてきた者が損を被るのは当然となる。さらに、同紙のウルフ氏は「政府が国債を発行し続けると、長期的にはある種のデフォルトを起こす。その場合、政府の主たる債権者は富裕層なので、彼らが何らかの形でコストの大半を負担することになる」と指摘します。同氏は「消費者が消費でき、企業が利益を上げられるようにするために、富裕層の余剰資金を取り上げ、分配する。それは富裕層の利益にもかなう」と。米国では、富裕層の貯蓄過剰(儲けすぎ)と下位90%による貯蓄縮小(借金)で格差が拡大し、経済を停滞させてきたとされます。米国では、富裕層と非富裕層の格差が大きく、日本は高齢者と現役世代の格差が大きい。財政危機の打開のためには、所得や資産が大きい富裕層(米国)か高齢者(日)に負担ないし犠牲を求めよう。かいつまんでいうと、こんな結論になるのでしょうか。
日本のメディアの論調(社説)をみますと、「コロナ危機でも財政運営に規律が必要だ。首相はコロナ対策の規模を空前絶後と述べた。ばらまきの要素が強いのもが混在する」(日経)、「財政運営の基本方針の形骸化が進みつつある」(読売)などで、本音を書いていません。日本は過去20年ほど、平均の経済成長率は0・8%という低空飛行です。コロナ危機前の経済水準にも戻るのに、3,4年はかかるといいます。景気が低迷すれば、さらに税収増を伴わないまま、財政支出が増えます。社説が指摘するような問題意識で対応できるほど甘くはありません。
インフレを起こして公的債務の実質価値を減らそうにも、日銀は2%消費者物価の引き上げ目標すら達成できていません。いっそのこと、財政破綻に追い込まれ、結果として債務削減につながるほどのインフレが起きる。政策選択でなく、結果論として、債務削減になるということでしょうか。「なんとかなるさ。これまでもそうだったし」「世界全体も財政金融の規律が緩んでいるから、みんなで渡れば怖くない」。政治家はそうなのでしょう。だからこそ、学者や識者は本音の議論を始めてほしい。(おわり)
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