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2020-07-27 00:00
最近の習近平の地方視察の動向等
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
7月26日、中国の長江(揚子江)では第3号洪水発生警報が発令され、国家洪水対策部門はⅡ級緊急態勢の継続を決定した。同態勢の維持は既に15日目であり、その被害も6月の入梅以降江西省、安徽省、湖北省など27の地方で約4,500万人が被災し、家屋35,000棟が崩壊、直接的な経済損失額は約1,160億元(約1兆8,000億円)に上るという(22日発表)。湖北省武漢市や北京市等の「COVID-19」対策が一段落したら、今度は水害の襲来である。では、現地視察など習近平ら中央指導部の対応はいかなるものなのか、以下紹介したい。
2 習近平、吉林省を視察
7月21日、北京で企業家座談会(後述)を主宰した習近平党総書記は、翌22日から東北部の吉林省を訪れた。今回の地方視察は1月の雲南省以来、北京市(2月、3月)、湖北省武漢市(3月)、浙江省(3月)、陝西省(4月)、山西省(5月)、寧夏回族自治区(6月)に続く本年9回目のものであった。随行者は丁薛詳(党中央弁校庁主任、秘書役)、劉鶴(国務院副総理、経済ブレーン)、何立峰(国務院国家発展改革委員会主任、経済改革担当)の「常連」に加え、陳希(党中央組織部長、習の清華大学学友で党内人事担当)という「側近メンバー」であった。習総書記は、吉林省の巴音朝魯党委員会書記、景俊海省長(党委員会副書記)の案内で四平市、長春市を視察した。特に重視したのは長春市であり、23日には許其亮中央軍事委員会副主席(空軍)を連れて空軍航空大学を視察した。軍の視察は3月の軍事医学研究院(北京市)と火神山医院(武漢市)視察以来4か月ぶりのことであり、パイロット要員の空間慣熟訓練や「無人機」(ドローン)の実験開発動向を視察した。そして、翌24日には長春市内のコミュニティ施設や自動車工業の「一汽集団」を中核とした産業地域「長春新区」(2015年設立)を習総書記は視察し、「(自動車工業は)必ずキーとなる核心技術や核心部品は自主的な研究開発を行い、技術の自立自強を実現し、強大な民族ブランドを打ち立てなければならない」と強調した。
しかし、今回の地方視察は、言わば「不要不急」の活動でなかったのかという疑問が残る。先ず対象地域が水害被災地域ではなかった。そもそも7月20日付の拙稿で指摘したように、水害対策として開かれた中国共産党の中央政治局常務委員会は17日の開催であり、この時点で5月19日にも常務委員会が開かれ水害対処を習近平が指示していたことを明らかにしたことから考えて指導部の関心が低いと言える。今回の吉林省視察でも、習総書記は「当面、全国の洪水対処は『七下八上』(7月下旬から8月上旬まで)という段階にあり、必ず南方と北方の河川における安全を統一して処理し、防災・救援活動を適切に行わなければならない」と述べただけである。これは一見、南方の長江と北方の黒竜江の両方に目配りした処置にみえるが、南方の被災者は22年前の1998年大洪水時の1,500万人を既に超えているのだ。こうした被害を目の当たりにしながら27日2000現在、習近平以外の党要人の水害被災地域の現場視察も未確認であり、水害対処の責任者は国務院の閣僚クラス(国家洪水対処指揮部の王勇指揮官<国務委員>、黄明副指揮官<応急管理部党委員会書記>)にすぎない。他方、今回の吉林省視察で習総書記は、明年から始まる「十四五」(第14次5か年計画)策定を明言し、「各地方が深く調査研究を行い、直面する古い難題と新たな挑戦に集中して発展目標に関する思想と措置を考慮するよう希望する」とも述べたが、この問題は既に21日の企業家座談会でも提起されていた。以下、細部みていこう。
3 愛国的な「企業家精神」発揮を要求
7月21日、中国共産党の習近平総書記は企業家座談会を主宰して重要講話を行った。同座談会には党政治局常務委員である汪洋全国政協主席、王コ寧中央書記処書記(筆頭)、韓正国務院副総理、及び政治局委員である丁薛詳中央弁公庁主任、劉鶴国務院副総理、楊傑チ中央外事弁公室主任、黄坤明中央宣伝部長に加え尤権統一戦線部長、王勇国務委員、王毅外交部長、何立峰国家発展改革委員会主任が出席した。これだけの要人が一堂に会した会議は異例であり、特に非共産党員や資本主義信奉者の「企業家」への協力を担当する汪洋や尤権、対外問題を主管する楊傑チや王毅までが出席したことからみて、内外の「親中」勢力への働き掛けによる広範な「統一戦線」結成へ本腰を入れたことも伺える。座談会終了に合わせて公表された重要講話の内容によると、習近平は「企業家の皆さんと腹を割って話し合い、皆さんを激励し、当面の経済情勢や第14次5か年計画期間における企業の改革発展に関する意見と提案を聴きたい」と切り出し、特に「企業家精神を発揚せよ」として企業家に対し5つの希望を出した。それらは①愛国意識の増強、②勇気を持った技術刷新、③法治の順守、④社会的な責任の保持、⑤国際的な視野の拡大であり、中でも新中国成立後の愛国的な企業家の典型として栄毅仁元国家副主席や王光英らの名を挙げて愛国意識の涵養をあらためて説き、また米国のフォードやドイツのシーメンス、日本の松下幸之助など海外の著名な企業家が単なる管理者にとどまらず、技術刷新の大家であったと強調して組織・技術・市場の一層の刷新を訴えたのである。講話の最後に習近平は「中国自身の事を上手く行うのに力を集中しよう」と企業家に呼び掛け「保護主義の抬頭、世界経済の低迷、グローバル市場の萎縮という現在の外部環境の下、我々は国内の超大規模市場という優勢を発揮し、国内経済の繁栄・国内大循環の開通によって中国経済の発展に動力を与え、世界経済の復興を促進しなければならない」とさえ強調した。しかし、この一種の「拡大会議」のひな型は、既に13日に開かれていた国務院の経済情勢専門家・企業家座談会にあった。同座談会を主宰したのは李克強総理、出席したのは国務院副総理である韓正、孫春蘭、胡春華、劉鶴の全員に加え国務委員の王勇、肖捷(国務院秘書長)、何立峰国家発展改革委員会主任であった。21日の習の企業家座談会に重複出席したのは韓正、劉鶴、王勇、何立峰であり、22日からの吉林省視察にまで同行したのは劉鶴、何立峰ら経済閣僚であったことから考えてトップの習近平が吉林省にまで赴く必要は特にみられないし、緊急性もなかったと言える。むしろ、習の吉林省視察の目的が、久し振りの「軍教育機関」空軍航空大学訪問、あるいは「盟友」陳希組織部長の随行から今後の党内人事調整に重点があったとも解釈できよう。
4 おわりに
7月26日の読売新聞の報道によると、中国共産党の重要人事などが議題となる毎年恒例の河北省秦皇島市北戴河会議が近く開催される見通しで、習近平は2022年秋の第20回党大会からの3期目政権を視野に入れた人事に着手しているという。中国は依然として「政治の季節」にあり、焦眉の急である洪水対処、経済回復や対米外交なども全て政治(内政)動向に支配されているのだ。この点を見誤ってはならない。したがって、27日の朝鮮戦争停戦協定締結記念日(北朝鮮は祖国解放戦争勝利記念日に指定、中国は同協定署名国)に際して中国から有効なコメントは出ないであろうし、予告された「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)年次総会(28日)における習近平の開幕式典祝辞も当たり障りのない内容になるであろう。
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