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2020-06-09 00:00
(連載2)WHOは何処に向かうのか
倉西 雅子
政治学者
一旦、加盟国からの拠出金が国際機関の‘金庫’に納められてしまいますと、加盟国間の受益と負担の関係を見えなくしてしまうものです。このため、実質的にアメリカが中国を資金面で支援していたとしても、中国はアメリカに対して特段に恩義を感じることはない、ということになります。それどころか、WHOのトップの座を潤沢なチャイナ・マネーで掌握し、より自国に都合の良い方向にコントロールしようとしたのですから、トランプ大統領の脱退の決意も理解に難くはありません。
そして、仮にテドロス事務局長が就任当初から‘制度改革’を目指していたとしますと、この計画の影の発案者が中国であった可能性も否定はできません。上述したように、財団設立の目的がWHOの自由裁量の幅を広げることにあるならば、この目的の正体は、最大の拠出国であるアメリカの影響力を排除し、中国の意向で自由に予算配分ができる体制への変革であったとも推測されるのです。民間からの自発的な寄付という形であれば、最早、アメリカはWHOの運営に口出しはできないと考えたのでしょう。
テドロス事務局長は、WHO財団が最初に取り組むのは感染症に対する緊急対応並びにパンデミック対応と述べていますが、自らの初期対応の失敗を資金不足のせいにしているようにも聞こえ、先が思いやられます。しかも、‘財団’という形式は、表向きのクリーンさとは裏腹に、常々腐敗の温床となる傾向にもあります(悪事のカモフラージュの側面も…)。既に、任意拠出金額においてアメリカに次いで第二位のランクにある「ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団」のビル・ゲイツ氏は、WHOに対して影響力を保持しています。今般、WHO財団が新設されるとすれば、中国に限らず、‘大口の出資者’によってWHOが私物化されてしまうリスクも生じることでしょう。
テドロス事務局長の制度改革とは、その実、WHOの存在意義をも喪失させかねない改悪、否、破壊行為ともなりかねません。アメリカのみならず、日本国政府もまた、‘国際組織無誤謬神話’から脱し、WHOの将来的なリスクをも見越した賢明なる判断を為すべきなのではないかと思うのです。(おわり)
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