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2020-05-29 00:00
中国の全人代会議をめぐる動向三論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
5月28日午後、中国の第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議が閉幕した。22日に開幕し、1週間の会期を経た最終日、「サプライズ」議案となった香港統制強化措置を含めた各議案への投票結果が明らかになった。これを中心に以下、今回の全人代会議の注目点を紹介したい。
2 主要投票結果の内容
新華社など中国の公式メディアは議案の採択結果を報道するだけであるため、香港紙の報道をまとめると以下のような投票結果になった。
(1)政府活動報告:賛成2882票 反対3票 棄権1票
(2)民法典:賛成2879票 反対2票 棄権5票
(3)香港特別行政区の国家安全保障維持健全化措置:賛成2878票 反対1票 棄権6票
(4)経済社会発展計画:賛成2855票 反対20票 棄権11票
(5)財政報告:賛成2831票 反対39票 棄権15票
(6)全人代常務委員会活動報告:賛成2875票 反対9票 棄権2票
(7)最高人民法院活動報告:賛成2794票 反対76票 棄権16票
(8)最高人民検察院活動報告:賛成2853票 反対58票 棄権16票
例年の全人代会議どおり、否決された議案はなく、全ての議案は過半数の賛成票を得て承認・可決された。5月23日の拙稿で述べたように「反対・棄権票数の動向が『民意』人民代表の意向の反映」であるとすると、中国全土から集まった人民代表は「香港統制措置」に対し「反対1票・棄権6票」で応じ、圧倒的な賛成票を投じて「賛意」を示したのである。また、投票の現場では、先ず結果が公表された際に1回目の拍手喝采、続く栗戦書全人代常務委員会委員長による「可決」発声に対する2回目の拍手喝采、閉幕演説における「全人代常務委員会は今後、香港特別行政区の国家安全保障維持のための関連法律を制定する」という栗委員長の発言に対する3回目の拍手喝采が行われたという。以上のことから、「国家の最高権力機関」と憲法に規定される全人代会議は、諸議案を承認するだけの「ゴムスタンプ会議」にすぎなかった。
3 習近平国家主席の行動等
今回の全人代会議開催中、習主席は内蒙古自治区代表団(5月22日)、湖北省代表団(24日)、人民解放軍・武装警察代表団(26日)の各討議を聴取した。「COVID-19」の惨禍に見舞われた湖北省代表団への臨席は本年の特徴である一方、内蒙古、解放軍の各分科会への参加は2018年以来定例化されたものであった。そして、異例だったのは内蒙古代表団における習主席の発言であった。「今回の疫病が無ければ、普通の状況下で経済成長目標は6%前後に定めるはずだった」と切り出した習主席は、「しかし、疫病発生後の状況は我々から主体性を奪い、衰退した世界経済情勢によって我々の受けた影響は大きく、かつ深くて不確実性が増したのだ」と真情を吐露した。さらに、習主席は「もし我々が変更できない目標を定めると、着眼点が経済刺激の強化や経済成長率の重視となるから、これは中国の経済社会発展の趣旨にそぐわない」と強調したのである。今回の全人代会議に「香港統制措置」議案を追加するという「力技」をとった習近平の立場からすれば、政府活動報告に経済成長目標を残す、あるいは新たに追加するのは何ら問題が無かったはずである。これは一部邦字紙のいう習近平の「恨み節」ではないだろう。むしろ習の発言通り、経済成長目標の提示による今後の「経済過熱」への懸念、あるいは経済成長目標提示を見送った「経済減速」で李克強総理への「責任転嫁」にも見なされるのだ。他方、「香港統制措置」に関して習近平は、人事上も強化策をとった。今後の立法活動を主管する栗戦書全人代常務委員会委員長の存在に加え、「習近平一派」の夏宝龍全国政治協商会議副主席兼秘書長(事務局長)から、多忙の秘書長職を外して国務院香港マカオ弁公室主任(本年2月に副主任から昇格)への専従を命じたのであり、習近平は強力な布陣をしいたことになる。
4 おわりに
今回の全人代会議に関し、多数の邦字紙が中国の「疫病への勝利宣言」、これを区切りにした「経済回復に重点」を事前に予想していたが、結果は全て外れたことになる。今後の中国は、香港問題への関与を強化する「政治の季節」に入ったのだ。中国の政治日程を概観すれば「六四」天安門事件31周年、香港大規模デモ開始1周年(8日)、香港返還23周年/中国共産党創立99周年(7月1日)、夏季の河北省北戴河会議(非公式協議 避暑地に集結する現役・引退のVIP等が参加する重要会議)が予定されており、その動向が注目される。
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