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2020-05-23 00:00
中国の全人代会議をめぐる動向再論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
5月22日午前、中国の第13期全国人民代表大会(全人代)第3回会議が開幕した。本来なら3月5日に開幕する予定の年度定例会議であったが、「COVID-19」の影響によって78日間も遅れて開催された会議であった。しかし、初日から「サプライズ」事象が現出しており、以下中国内外の報道から明らかとなった全人代会議の注目点を紹介したい。
2 今回の会議進行要領等
開幕前日の5月21日、全人代会議の予備会議(準備会議)が開かれ、これを受けた記者会見が夜間に行われた。ここで漸く会期が7日間で閉幕は28日午後と公表され、「短期間」で3回の全体会議(政府活動報告等を聴取、最終的に議決する大型会議)が行われるとされた。初日の22日に全体会議(内容は後述)が既に行われ、閉幕日の28日午後に議決のための全体会議が行われるとすると、次週の前半に全体会議(残りの報告聴取)があと1回行われる予定である。そして、その合間に31の省・直轄市・自治区、香港・マカオの特別行政区、人民解放軍・武装警察等の各代表団の討議が行われ、その場に習近平ら中国共産党要人が臨席し、聴取するのが毎年恒例のイベントであった。しかし、今回の会議では、「COVID-19」に対する防疫上の配慮から、全体会議や代表団会議等全てインターネット、ビデオ、書面をとおした間接的な発表・取材となり、重要情報も各代表団のスポークスマンが公表するとされ、低調な雰囲気も醸成された。そうすると焦点は議案であるが、それはいかなる内容となったか。
3 議案:香港特別行政区への統制強化案を急遽追加か
過去の全人代会議の内容から単純に予想すれば、今回の議案は①政府活動報告、②経済社会発展報告、③財政報告、④全人代常務委員会活動報告、⑤最高人民法院活動報告、⑥最高人民検察院活動報告に加え、⑦中国史上初の「民法典」草案審議の7個しかなかった。しかし、5月21日晩の記者会見で公表された議案は9個、上記7個に⑧「香港特別行政区の国家安全保障維持健全化のための法律制度、及びその執行メカニズム確立に関する全人代常務委員会の決定」草案審議と⑨その他事項が急遽追加されたのだ。この「香港統制強化」措置とでも言うべき全人代常務委員会の決定草案が何故、今回急遽追加されたのか、他の議案内容と併せてみていこう。
(1)真のターゲットは台湾
第1回全体会議で議案説明を行った王晨全人代常務委員会副委員長は、香港で2019年6月以降に常態化した大規模デモを非難して「無視できないリスクに直面している」とし、香港基本法に規定される「国家安全保障」維持のための法律制定で蹉跌を繰り返す現地の香港特別行政区に代わって、中央の全人代常務委員会が法制・執行メカニズムに関する詳細を決定し、香港基本法の付属文書にこれを盛り込むとした。その最大の理由は、19年10月建国70周年の晴れ舞台に汚点をつけた香港民衆、それを抑えられなかった香港当局への習近平の怒りであろう。ただし、法的にみて香港基本法本文の修正が「常道」と思われる中、全人代常務委員会の決定を「附則」にすぎない文書に盛り込んで現地当局に実施を命じ、かつ実行状況を定期的に報告せよというのは、自治を主眼にした「一国二制度」方針の形骸化、無力化を加速するだけである。しかも、今回の措置が最終的には「平和統一」を目指す台湾を狙った措置であるとして18~19日、台湾排除を鮮明にした世界保健機関(WHO)会合、及び20日の蔡英文台湾総統就任式と続くイベントから考えると時期的には最悪のタイミングであったと言える。
(2)霞んだ「民法典」草案等
中国史上初の民政に関わる「民法典」草案と喧伝されたが、上記の「香港統制強化」措置の中身から考えて「一体、何のための民権、民生の重視か」という疑念が全人代代表の中に起こる可能性は否定できない。しかも、事前の報道等からすれば、今回の「COVID-19」対応から露呈した公衆衛生上の問題点を解決するための「突発事件対処法」や「突発公共衛生事件応急条例」の改正、習近平が自ら制定を訴えた「生物安全法」草案の審議が優先されるべきなのに今回の
議案から外されており、「法治中国」のスローガンが、依然として単なる掛け声にすぎないことも明らかになった。
(3)成長目標提示見送りの真の狙い
5月22日、政府活動報告草案の説明を行った李克強総理は「(諸情勢の)不確実性が非常に高い」として、毎年定例化していた国内総生産(GDP)成長率の目標提示を見送ると表明した。これは予定どおり、3月に開かれた全人代会議における報告なら、2019年並みの「6~6.5%」目標が提示されたであろう。しかし、本年1四半期(1~3月)の成長率が初のマイナス成長(ー6.8%)を計上したこと等を受けて文面が修正されたという。しかし、真の狙いは今後下半期にかけ、数字化された成長目標を目安に経済活動に専心し、目標の早期かつ満額、超過達成に「狂奔」する地方政府や国有企業、関連部門の動きを抑制するためであろう。
(4)「不透明な国防費」は不変か
5月22日、国防予算(軍事予算)が前年比6.6%増の1兆2680億元(約19兆2000億円)と公表された。伸び率は2019年の7.5%を下回り、1990年代以降では最低のレベルとなった。これは「COVID-19」蔓延による経済不振や、増大する財政赤字によって逼迫する予算状況等が反映されたと言える。また、前日の21日の記者会見では、毎年質問が出され問題視される「不透明な国防費」問題に関して全人代会議スポークスマンは、機先を制して「2007年以降、中国は毎年国連に軍事支出を報告している」とし、「金銭がどこから来て、どこで使われているかは明白であり、いわゆる『隠れ国防費』(中国語:隠性軍費)問題など存在しない」と言明した。これでは永久に国防費の中身は明らかにならず、不透明なままであろう。実は全人代会議直前の5月12日、中国海軍の艦艇や空母建造の総責任者であった胡問鳴中国船舶重工集団(今は統合化されて中国船舶集団)元会長(兼党組書記)の拘束・調査が明らかとなった。中国内外、特に外国の記者は、この「反腐敗闘争」事例を契機に「これまで空母建造にはどのくらい予算がかかったのか」、あるいは「公表される国防費の装備分野の中に空母建造予算、あるいは海軍装備予算はどの程度占めるのか」と具体的な質問を何故発しないのか。たとえ今回回答が拒否されたとしても国防部、財政部、国家監察委員会に質問を継続し、口頭でも書面でも回答を督促すればよかろう。
4 おわりに
5月22日晩の中国中央テレビ(CCTV)に映し出された習近平は、どこか不満な表情を示していた。前日21日に開幕した全国政治協商会議(27日閉幕)では汪洋主席(前副総理)、全人代会議では李克強総理がぞれぞれ報告を行って存在感を示す一方、習近平のショーアップが無かったためだろうか。あるいは人民大会堂に参集した全人代代表の一部に居眠りや私語を行う者を見とがめて怒ったのか理由は定かでない。しかし、今後の全人代会議の焦点は、恐らく最終日28日の全体会議における各議案への投票動向である。例年、否決事案は皆無であり、過半数で議案が承認・可決されるが、賛成・反対・棄権の得票数は人民大会堂の大型ディスプレイに表示、公開される。反対・棄権票数の動向が「民意」人民代表の意向の反映であり、その動向によって全人代が「ゴムスタンプ会議」か否かが明らかとなるので注目したい。
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