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2020-04-25 00:00
対コロナを「戦争」と例える軽挙
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
政治ジャーナリストの田原総一郎氏が総理官邸で安倍晋三首相に会ったとき、安倍氏は「第三次世界大戦は核戦争になるであろうと考えていた。だがこのコロナウイルス拡大こそ、第三次世界大戦であると認識している」と語っていた(朝日新聞2020/04/16)。核戦争は国家を前面に打ち出しての最終戦争であり、新型コロナウィルス対策は世界人類が共同してパンデミックと対抗していくための叡智を共有する場であって両者はまるで違う。これをもって「第三次世界大戦」だという安倍氏の認識は明らかにまずい。
というのも、同報道によれば総理がコロナウィルスの蔓延を「戦時の発想」に変えたことで「緊急事態宣言」を出すに至ったものと田原氏は総理の心理を「分析した」であるが、もしこれが本当なら、パンデミック対策としては的外れな恐慌ともいえる戦時的政策として具体化する可能性が高まってくるからだ。これから出てくるすべての施策については「殿、ご乱心では?」と、まずもって疑ってかかる必要があろう。
ともあれ、一般的に「ウイルス」などというものは、人類の出現よりはるかに古く、しかも彼は長い歴史の中を常に宿主を求めて姿を変えつつ、何十億年を生きてきたものであろう。彼の宿主の多くは共生関係でもあったので、それなりの安定性の中で今日まで連綿として続いてきたのでもあったろう。それが、ヒト科ヒト族の驚異的な「繁栄」によって、熱帯降雨林地帯の開発、あるは世界中いたるところで大地が掘削され、彼らがひそんでいた空間に道路が作られ、畑が開かれ、都市が生まれて、彼らが存在のための空間が一変してしまった。結果として、姿を「新型」に変えて、そこに棲むヒトをねらって寄生するしかなくなったのではなかろうか?そうであれば、これは「戦争」ではない。安倍氏の発想(あるいは田原氏の勘違いか?)は、ドン・キホーテのアナクロニズムか事大思想でしかない。
パンデミックを戦争になぞらえてしまうと、勝利のためなら何をしてもよいという発想に退行してしまうことにならざるを得なくなる。冷静に、ウイルスを科学の対象として捉える「知性」が、今こそ必要であり、政治と行政はそのための環境を整備するのが本分であろう。キリスト教の復活祭を前にドイツのシュタインマイヤー大統領は4月11日夜、国民向けにテレビ演説をして、「『新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は戦争ではない。国と国、兵と兵が相対しているのではなく、私たちの人間性が試されている。最高の姿を示そう』と述べ、3月半ばから外出制限を強いられている市民に理解と協力を改めて求めた」(2020/04/12朝日新聞)。外国にはこういう指導者がいる、そして我らが「指導者」との彼我の相違を嘆く。
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