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2020-04-16 00:00
新型コロナウイルス対応策
池尾 愛子
早稲田大学教授
3月15日に本e論壇に、「新型コロナウイルス対策に向けて」と題して投稿して以降も、毎日このウイルスに関する報道から目が離せない。東京オリンピックは来年に延期され、4月7日夕方に日本の一部都府県に対して、そして本日16日夕方には日本国全体に対して、中央政府による緊急事態宣言が出された。人の往来・接触を減らさなくてはならない。このウイルスに関する報道量はぐんと増えていると思って、本日午後に本投稿を書き始めた。外務省海外安全ホームページには4か国の情報を得られるように登録しているが、昨年に比べてメール量は大幅に増加したままである。ドイツについては、メルケル首相が自宅での自主隔離を解いたのち、彼女が出した指示を伝えるメールが全体数を増やしている。
「(感染力が強く)無症状の感染者(検査陽性反応者)からも他の人に感染する」、「一度感染・発症したあと治癒したように見えても再び発症することがある」等々と分かった時、「このウイルスで人類は滅びるかも知れない」と思った。4月13日、世界保健機構(WHO)が記者発表したようだ。再陽性が相次いで見つかることに鑑みて調査したところ、検出できるほどの抗体反応を示さなかった人々がいる一方で、非常に高い抗体反応を示した人々もいるとのことである。つまり、回復者に免疫がついているかは不明だとの見解である。ワクチン開発については、3月末、いち早くジョンソン&ジョンソンがCOVID-19の有力ワクチン候補を発表し、2021年の早い時期での供給開始を見通している。4月11日、英オックスフォード大学の研究チームが「8割の確率でCOVID-19に効く」ワクチンを早ければ9月に実用化すると報道されたようだ。少なくとも、ワクチンが実用化されて多くの人々が接種できるまで、全く安心はできないのである。つまり、以前の普通の生活に戻れないのである。
昨2019年10月19日に本e論壇に「独中日の共同研究プロジェクト始動」と題する投稿の中で「ドイツ・中国・日本の社会科学に関する国際共同研究プロジェクト」を紹介した。そこで触れたドイツでの会議は2月上旬に予定されていたのであるが、1月初旬の時点で延期されている。そして3月下旬にプロジェクト全体が延期となっていることを確認している。研究協力者たちにはおそらく1年ぐらい延期されるのではないかと伝えている。春学期は学会大会中止・海外出張中止となり、皆教員として遠隔授業の準備や実施で忙しくしていることと思う。研究はともかく、教育は初等から高等レベルまで大きく姿を変えざるをえないのではないか。
東京では研究会なども3月から中止が相次いだ。私は明治期に活躍した経済学者の天野為之(1861-1938)を研究していた。彼が生まれたのは開国後の江戸で、維新後に北九州の唐津で少年時代を過ごした。港に立ち寄る船で働く船員がコレラを持ち込み、また拡散させたようで、社会不安をいっそう広げることがあった。天野は設立2年目の東京大学で学び始め、西洋哲学史や経済学の授業を英語で受けた。当時の経済学の教科書はイギリスのJ.S.ミルの『経済学原理』で、天野は二宮尊徳とこれを研究の土台にしていく一方で、近代的銀行業についてかなり徹底した研究を進めた。そして彼の経済学は開発経済学の様相を帯びていることが分かってきた。彼はドイツ信用組合制度の研究書(英語)であるウォルフの『国民銀行論』の和訳の校閲をして序文を寄せたり、グスタフ・コーンの『財政学』(原著ドイツ語)の英訳からの和訳を校閲したりしている。彼本人が訳したJ.N.ケインズの『経済学の範囲と方法』では、ドイツ歴史学派経済学者による研究目的が「経済発展の法則」とみなされていた。天野はドイツ経済学を英語のプリズムを通して理解したのかもしれない。COVID-19の発生をめぐって国際対立が続きそうである。「人類が滅びないように」感染リスクを下げながらも、独中日の国際共同研究プロジェクトを何としても進めなければと覚悟を決めている次第である。どうぞ応援していただきたい。
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