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2020-04-04 00:00
最近の習近平指導部への試論三論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
中国は4月4日、新型コロナウイルスの死者を哀悼(追悼)する全国的な活動を行った。4日は中国で多数の人が先祖の墓参りを行って弔う清明節にあたり、首都北京市の中南海(要人居住地)では習近平、李克強ら中国共産党政治局常務委員7人と王岐山国家副主席(前常務委員・規律検査委員会書記)らが黙とうをささげた。前日の3日にも、習ら中国要人は北京市内で義務植樹活動を行うなど「集団指導体制」を演出した。他方、日本のメディアではあまり取り上げられなかったが、習近平自身は3月29日から4月1日まで「3泊4日」という長期にわたる地方視察を実行したので、以下紹介したい。
2 視察先は浙江省
3月29日から習近平は、浙江省の車俊党委員会書記、袁家軍省長(兼党委員会副書記)の案内で寧波、湖州、杭州等の視察を開始した。今回の地方視察活動は、10日の湖北省武漢市以来のものであったが、対象の浙江省はかつて習が党委員会書記等を務めて権力基盤を固めた場所である。また、時間的には過去3回の視察活動(北京市2回、武漢市)が全て1日間だったのが、今回の浙江省視察は月跨ぎで4月1日にわたる(3泊)4日となるものであった。確かに中国における疾病状況が落ち着いてきたとはいえ、防疫活動という「人民戦争」中の非常時、トップたる習近平が北京を不在にして長期の地方視察、しかも自身の「ホームグラウンド」となる浙江省滞在を「敢行」したのは異例であると言える。
3 「危機はチャンス」という認識
視察活動最終日の4月1日、習近平は浙江省指導部の情勢報告を聴取して演説を行った。演説の基調は従来の防疫活動と経済振興という「両手で掴む」政策の堅持であったが、習は「危機とチャンスはいつも共存しており、危機を克服することはチャンスである」とし、「海外の疾病の拡散・蔓延は国際的な経済防疫活動に重大な影響を及ぼしたため我が国の経済発展は新たな挑戦に直面しているが、これは同時に我が国の科学技術発展の加速、産業高度化のレベルアップに新たなチャンスをもたらしている」と強調したのだ。そして習は「深く分析し、全面的な判断を行い、精確に変化を認識し、科学的に変化に対応し、主導的に変化を求めて眼前の危機や困難からチャンスを掴み、これを創造することに習熟しなければならない」とも指摘し、あらためて中国全土の指導層、共産党員幹部の職務遂行に発破をかけたのである。
4 “習近平語録”学習の強調
4月1日晩、習近平の浙江省視察を報じた中国中央テレビ(CCTV)は「(習近平著)『之江新語』を再度学習しよう」と題するニュースを報じた。『之江新語』という書籍は、かつて2003年2月から07年3月まで浙江省党委員機関紙「浙江日報」に掲載された、当時の習近平党委員会書記の政見披露コラム232本をまとめたものであり、世界のベストセラー『毛(沢東)主席語録』に擬した“習近平語録”とさえ見なされる。CCTVは「今や多くの同志の手元には同書がある」から「我々はこれを紐解いてもよい」と主張し、「最近、習近平が防疫活動時に出した多くの要求や、今回の浙江省視察で示した配慮は全て同書の中で、時空を超えた共感と深謀として見出すことが可能である」と報じたことからみて、習近平の言動を称える宣伝活動が一層強化されていることが伺える。
5 おわりに
このように習近平の視察活動をみてきたが、表面上は緊急性や必要性は特に感じられず、自身の「息抜き」行動、あるいは「物見遊山」とさえ見なされるのだ。4月8日に予定される湖北省武漢市の封鎖解除を前に何らかの「非公式」会議(秘密会)が開催されたのであろうか、今後の中国指導部の動静が注目される。
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