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2020-03-21 00:00
(連載2)緊急事態宣言と民主主義の強化はセットで
倉西 雅子
政治学者
感染者数の増加が止まらない状況を受けて最初に緊急事態を宣言したのは、中国からの訪日客も多く、かつ、ビジネスでも関連が強い北海道でした。もっとも、地方自治法には行政の長に緊急事態の発令権は明記されていませんし、同宣言は、県民に対して週末の外出を控えるように呼び掛けたに過ぎません。北海道のケースは協力要請のアピールとして理解されるのですが(鈴木知事が非常事態と緊急事態を区別したのかどうかは不明…)、強制力の欠如が感染拡大を許す現状を重く見た政府は、感染予防の分野に限定する形であれ(新型インフルエンザ等対策措置法)、首相による緊急事態の発令を可能とする法改正に着手したのです。
新型コロナウイルス禍の発生により、日本国では首相の権限強化が図られ、一先ずは、緊急事態に即応し得る体制を整えつつあります。その一方で、不安が残されているとすれば、それは、上述したように、国民の基本的な自由や権利を制限する根拠として利用されてしまうことです。ジョージ・オーウェルの『1984年』でも、世界を分割統治する三大国は結託しながら常に有事の状態を維持しており、それを理由に、国民は政府による徹底した監視体制の元に置かれ、不自由な生活を強いられています。実際に、北朝鮮の体制も、休戦状態にあるとはいえ、朝鮮戦争以来の戦時体制が金一族の世襲による独裁体制を正当化しています。一党独裁国家である中国あっても、新型コロナウイルス対策を根拠として、習政権は、国民監視体制を一層強化しようと狙っているのですから、日本国にあっても、首相の権限拡大に不安を感じる国民も少なくないはずです。
将来的には、首相による非常事態宣言の発令権は防疫の分野に限らず、有事や災害等の緊急事態一般にも拡大するのでしょうが(憲法改正の論点となるかもしれない…)、こうした国民の不安を解消するためには、国民と首相との間の信頼関係をより強固にする必要があるように思えます(加えて、首相には優れた統治能力と判断力、そして、国民に対する強い責任感も求められる…)。過去においても政党間の打算により誕生した内閣や支持率が一桁台でも辞任を拒んだ首相が存在したのですから、少なくとも現状の制度ではこの要件を十分に満たしてはいないのです。
首相権限の拡大と民主主義の強化はセットとして進められるべきであり、そのためには、首相公選制の導入(あるいは大統領制への移行…)、首相リコール性の創設、国会によるチェック機能の強化、非常事態の必要性を公平・中立的な立場から審査する機関の設置、非常事態の長期化を防止するためのイニシアティブの導入などの制度も検討されましょう。これらの他にも様々なアイディアはありましょうが、民主的制度を活用すれば、それは国民の基本的な自由や権利を護る安全装置ともなり得ます。政府の統治機能と個人の自由や権利を調和的に両立させるには、制度的工夫が欠かせないと思うのです。(おわり)
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