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2020-03-05 00:00
(連載2)日英通商交渉はペルシャ絨毯商人のやり方で
緒方 林太郎
元衆議院議員
【最も大事な「土俵作り」】
いずれにせよ、英EU交渉が纏まらないと妥結出来ません(なので、最短でも英EU、日英同時妥結)。そして、繰り返しになりますが、日英両国にとって「同時妥結」のメリットは大きいです。となると、日本がこれから交渉を進めるに際して、とても重要なのが「スケジュール書き」になります。スケジュールは「土俵の作り方」で決まって来ます。EUとの交渉の進捗状況を見ながらでないと、日英では交渉は進められないという事を担保する土俵作りが最も大事でしょう。英EUとの交渉はそもそも英国にとって「race against time」なのですが、そこが纏まらないと後ろからは日本からせっつかれるという構図を作れるかが鍵です。分かりやすく言えば、「前門のEU、後門の日本」との絵姿にするという事です。過去の交渉を見ていても、日本はここが苦手です。日本の官僚組織は頭の良い方が多いので「中身で勝負」と思っている人は多いです。なので、過去の交渉でも土俵作りの段階で負けていたという事例がたくさんあります。しかし、相撲において最初から徳俵に足が掛かった状態で「はっけよいのこった」をやっても勝てないのですから、土俵作りに細心の注意を払うべきです。
【自動車の原産地規則】
自由化の具体的な中身としてはまずは「自動車」でしょう。ここで上記の原産地規則が出て来ます。今、見てみたら英国の自動車生産の現地部品調達率は45%程度です。日EU・EPAで合意した付加価値基準の原産地規則はもっと高い価値を域内で付ける事を求めています。なので、日EU並みのルールを英国に要求するだけでも、「英国産」自動車は関税撤廃の対象から外れてしまう可能性大です。したがって、日英交渉では、日EU並か、場合によってはプラスαの原産地規則を要求するくらいでいいと思います。英国がムチャクチャ焦り始めます。ただし、ここで日本に有利な交渉をやってもらうためには、英国での生産が多い日産とトヨタから「原産地規則は緩めで」という強い声が表で上がらないように根回しする事が大事です。英国政府は日産、トヨタの現地法人に「高目の原産地規則で合意したら、おたくの輸出に関わる。是非、日本政府をせっついてくれ」とアプローチしてくるでしょう。それに乗らないようにしてもらわないと、英国からのガイアツ(外圧)が国内企業からのナイアツ(内圧)に転化してしまい交渉の構図が荒れます。この件での譲歩は交渉最終局面でのディールのタマにすればいいのです。そこを日産とトヨタには理解してもらうべきです。
【アイルランド問題との関係】
日英交渉にもアイルランド問題は影を落とすでしょう。絶対にイギリスは、アイルランドと北アイルランドの間の税関検査を出来ません。そして、そうやって入って来たアイルランド産品(部品を含む)のお目こぼしを要求してくるはずです。アイルランド産部品は英国産部品と見分けが付かないので、日英交渉の色々な局面で「アイルランドと北アイルランドの通関関係が雑になる事についてはお目こぼし、宜しく」と言ってくると思います。そこを日本が「英国として一体的な運用をやれ。アイルランドとごちゃまぜはダメだ。」と強く突っぱねると、彼らはジレンマに襲われます。ただでさえ、アイルランドでシン・フェインが大躍進して、北アイルランドとの統一みたいなネタがアイルランド新政権内で議論される素地が生まれている中、英国としては絶対にアイルランド・ネタで揉め事を起こしたくないでしょう。そこをチクチク突いていくと、間違いなく(動けない)英国側がキレ始めます。
本件で英国に動ける余地が全くないので、最後は日本が「お目こぼし」する方向で譲歩する事になるのでしょうが、その時に出来るだけ多くのものを取りに行けばいいのです。「おたくの雑な税関検査(による迂回輸入の可能性)を受け入れるんだから、別の所でこっちの言う事を聞け。」という事です。最初から落し所を見ながら、相手が受けられれないような高目のボールを投げて、最後は仏頂面で嫌そうに手を握る、世界のスタンダードはこちらです。ペルシャ絨毯商人のやり方だと思っていただければと。あれこれ書きましたが、日英交渉、本当に頑張ってほしいです。(おわり)
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