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2020-03-04 00:00
(連載1)日英通商交渉はペルシャ絨毯商人のやり方で
緒方 林太郎
元衆議院議員
日英貿易交渉では、「どういう自由化をするか(関税交渉)」が重要なのかは言うまでもありませんが、それと同じか、それ以上に重要なのが「合意された自由化はどう適用されるのか」の方だと思います。つまり、ある品目の関税は撤廃したけど、英国が作った当該品目が関税撤廃の対象にならない、という可能性は大いにあり得ます。この代表的なものが「原産地規則」と言われるものです。私はグローバル・サプライ・チェーンが築かれている中、最近の貿易交渉では「原産地規則がとても重要だ」と強調しています。特に英国の製造業は、EUとの密接なサプライ・チェーンによって成り立っているものが多いです。こういうふうに考えてください。これまではEU内での部品調達率が50%であれば、その部品で作ったものは日EU・EPAによって無税で日本に輸出出来ていたとしましょう。そして、それはフランスから10%、ドイツから10%部品を調達して、英国産部品30%と合わせて完成品にしていたとします。今後、英国がEUから離れる時、英国内での部品調達率は30%まで下がります。これだと英国での部品調達比率が低いので、日本に無税輸出出来なくなります。そんな事を前提にしながら、読んでいってください。
【時間との競争(race against time)】
今後の日英貿易交渉は、結局の所、どちらが「race against time」になるかという事だと思います。どちらが妥結に向けて焦るかという事です。日本にも、英国にもその要素があります。ザックリ見て、日本は、①英国との貿易関係で損をしたくない、②英国進出企業に損をさせたくない(車と金融)。英国は、①日本との貿易関係で損をしたくない、②英国に進出している日系企業が損をすると雇用に関わる、③EUとの貿易協定妥結後もきちんとやれる事を世界に証明したい。利益の得喪を見るとこんな感じでしょう。そして、日英双方に共通して、英EUの貿易協定妥結と同時に、日本との交渉も妥結して同時発効を目指したい、という点があるはずです(でないと、貿易ルール上、技術的にかなりの途絶が出て厄介な事になります)。
【日本にとっての「値札」】
具体的な数字を見ると、貿易、投資いずれも出超である日本の方が抱えているビジネス上の利益は多いです。多分、英国はそこで日本の足元を見ようとして来るでしょう。日本からの輸出、英国に居る日系企業の生産・輸出が減退する可能性を以て、「早く妥結したいだろ?ならば、譲歩して」と持ち掛けて来るはずです。
【英国にとっての「値札」】
一方、英国にとっては、実は③の値札が高いように思います。いわば「メンツ」の問題です。ジョンソン首相は「EUとの協定に妥結してホントに出ていくけど、一人ぼっちじゃないもんね。日本とも新協定を妥結したもんね。」というプレゼンをしたいでしょう。政治的には「EUは出たけど、成果は出している」と大声で言いたくてたまらないでしょう(でないと、内政的に持たない)。勿論、日系のトヨタ、日産の進出による雇用創出は大きいですから、そこも気になってきます。日本はそういう焦りを煽る戦略に出るべきですね。(つづく)
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