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2020-02-25 00:00
新型肺炎に関する中国の対応六論
松本 修
国際問題評論家(元防衛省情報本部分析官)
1 はじめに
2月21日、中国共産党の中央政治局会議が開かれ、新型肺炎対策活動の研究と経済・社会発展活動も同時並行して行うことが議題となった。このように政治局委員25人が参加する「全体会議」が開かれるのは本年1月16日以来のことである。そして、今回の政治局会議の報道の中で、2日前の19日に習近平総書記が主宰して中央政治局常務委員会会議が開かれたことも明らかになった。新華社通信は19日、習総書記が、湖北省武漢市等現場で医療活動を行う医師や看護師といった「医療従事者は中核の力であり、必ず彼らを保護、重視、労わって各分野から支援を行い、彼らに終始強大な戦闘力を発揮させ、闘志を燃やさせ旺盛な精力で健康を維持しつつ、防疫闘争に打ち勝つようにしなければならない」という重要指示を出したと報じていたが、これが常務委員会会議における指示だったのか否か明らかでない。しかし、こうした「現場重視」の指示が出たことから、不明だった「雷神山医院」の実態等も明らかになったので以下紹介したい。
2 「臨時病院」雷神山医院の実態
2月19日、北京市から武漢市を訪れていた馬暁偉国家衛生健康委員会主任(同党組織書記 医者)は雷神山医院を視察して職員を慰問、同医院の活動状況を聴取した。院長は王行環で、現地の武漢大学中南医院院長であり軍人ではなかった。また、同医院に配属された医療関係者約2,000人は武漢市以外に遼寧省、上海市、広東省、吉林省から派遣された人員であり軍人の投入はなかった。したがって、過去の拙稿で雷神山医院を「火神山医院」と一緒に軍の動向として扱ったのは誤りであった。同医院は8日に開院して患者800人を収容、最終的には1,100個の病床を利用可能とされたが、現状ではまだ不十分な態勢であると言える。
3 国務院応急管理部の現状
拙稿「五論」で指摘した、中国の危機管理システムの「司令塔」を目指して新設された応急管理部の部長の長期不在は人事上も疑念を抱かれている。2月17日の中国共産党新聞ネットは「応急管理部の指導層で最近多数にわたる調整が行われ総勢は12人」と題する人事観察記事を掲載し、王玉晋部長の名を残しながら残り指導部11人の内に黄明副部長以下7人の副部長が在籍していることを報じた。同部の副部長の定員は4人とされながら、3人も「増員」されているのは部長不在を補うための措置なのかは不明である。しかし、2018年3月の新設当時、最多13部門にもわたる職責を統合した「寄せ集め所帯」の政府機構に対し、中国の命運を左右する危機管理という過大な任務を与えたのが問題と言えよう。
4 湖北省武漢市の問題点
2月20日、現場の指導・監督のために派遣された中央指導組(組長:孫春蘭副総理)の陳一新副組長(中央政法委員会秘書長、前武漢市長)は武漢市公安局防疫総指揮部を訪れ、指導幹部は必ず「データ」(原文:数)意識を持ち、疾病に関する統計データは正確かつ現実に即して扱い、いかなる水増しも虚偽も混ぜてはならない」と厳命したのである。さらに陳副組長が「防疫活動をしっかり行う場合、基礎データが明らかでなく進度が分からなければ受け身になり、敗戦となる」とし「疾病に関する統計データは科学的に分類し、正確に統計しなければならない」と強調したことから、現場では依然として疾病等に関する不正確な情報やデータが提供・使用されている可能性が高く、指導部が疑念を抱いてることがうかがえる。
5 おわりに
2月19日は中国の最高実力者・鄧小平が死去した日(1997年 享年92)であったが、新型肺炎に関する報道が主流の邦字紙は言うまでもなく「本家」中国メディアの報道でも確認できなかった。近年は「改革開放の総設計師」という呼称も殆んどみられないが、建国70周年(2019年)を経て間も無く中国共産党創立100周年(2021年)を迎える21世紀の中国を、存命なら鄧小平はどう評価しただろうか。
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