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2020-02-06 00:00
(連載2)日中「5つ目の文書」への流れを紐解く
緒方 林太郎
元衆議院議員
【③平和と発展のための友好協力パートナーシップの構築に関する日中共同宣言(1998年)】
が、過去の4文書の中で、最もトゲトゲしいのです。江沢民主席が国賓訪日した際のものです。同主席のキャラもあるのでしょう、文章の端々に厳しいやり取りが残る文書です。特に2つだけ挙げておきます。1つ目は、「双方は、過去を直視し歴史を正しく認識することが、日中関係を発展させる重要な基礎であると考える。日本側は、1972年の日中共同声明及び1995年8月15日の内閣総理大臣談話を遵守し、過去の一時期の中国への侵略によって中国国民に多大な災難と損害を与えた責任を痛感し、これに対し深い反省を表明した。中国側は、日本側が歴史の教訓に学び、平和発展の道を堅持することを希望する。双方は、この基礎の上に長きにわたる友好関係を発展させる。」という部分です。これは相当に中国側が拘ったのでしょうね。文章の構造から、日本が詫びを入れ、中国が「良かろう。これからもその調子で頑張れ。」という構図になっています。
2つ目は、「日本側は、日本が日中共同声明の中で表明した台湾問題に関する立場を引き続き遵守し、改めて中国は一つであるとの認識を表明する。日本は、引き続き台湾と民間及び地域的な往来を維持する。」という部分です。これにはとても重要なポイントがあります。これまで日本は「中国は一つ」と言った事はないはずです。ギリギリの所でそれを言わないようにしたのが日中共同声明でした。日本側の精一杯の抵抗が「改めて」という文字です。「過去に言った事と変わらないですよ。」という意味です。なお、分かりにくいのが「地域的な往来」です。これはAPECメンバーである台湾とのAPECを通じた往来です。これが無いと、APECでの往来すらダメだという事になりかねませんからね(今ではWTOを通じた往来も出て来ました)。当時の中台関係の緊張化もあったのでしょう、中国側の厳しさが目に留まります。ポジティブな面もあります。「中国側は、日本がこれまで中国に対して行ってきた経済協力に感謝の意を表明した。」こういう事を中国が言うのは初めてだったと思います。それまでは「感謝」という言葉ではなく、「評価」でしたから。
【④「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明(2008年)】
は、胡錦濤主席の国賓訪日時のものです。これまた、同主席のキャラがあるのか、親中である福田総理のキャラがあるのか、日中関係の進展があるのか分かりませんが、極めて前向きな要素の多いものです。何と言っても、殆ど「戦後問題(お詫びと反省)」と「台湾問題」が無いのです。特に「4.」の所など、極めて印象的です。「(1)日本側は、中国の改革開放以来の発展が日本を含む国際社会に大きな好機をもたらしていることを積極的に評価し、恒久の平和と共同の繁栄をもたらす世界の構築に貢献していくとの中国の決意に対する支持を表明した。(2)中国側は、日本が、戦後60年余り、平和国家としての歩みを堅持し、平和的手段により世界の平和と安定に貢献してきていることを積極的に評価した。双方は、国際連合改革問題について対話と意思疎通を強化し、共通認識を増やすべく努力することで一致した。中国側は、日本の国際連合における地位と役割を重視し、日本が国際社会で一層大きな建設的役割を果たすことを望んでいる。」つまり、お互いがお互いを誉めている状態です。10年前の江沢民主席の時とは大違いです。全体のトーンが極めて前向きで、「あれこれと釘を刺してやろう」という感じが殆ど無いのです。過去を知る者として、当時、「時代が進んだんだな」と感じたものです。
私なりの視点で、4つの文書を振り返ってみました。これが正解と言うわけではなく、論者によって見方は異なるでしょう。さて、習近平主席訪日時の5つ目の文書については、そもそも、それを作るかどうかについても政府部内に異論があるようです。あの習近平のキャラから言うと、王滬寧(チャイナセブン、序列5位)的な「中国の夢」を押し込んでくるのかな、「一帯一路」についての高評価を要求してくるのではないか、蔡総統再選を受けて台湾について強い記述を求めてくるのではないか、香港情勢については中国は書きたくはないだろう、人権や香港で弱い事を書いていると日本は世界で評価を下げるだろう、そんな事を考えます。(おわり)
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