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2020-02-04 00:00
雁行形態論の応用例
池尾 愛子
早稲田大学教授
雁行形態論は、1930年代に赤松要氏が日本での羊毛産業や綿工業の発展を統計的に観察して作り出した経済発展理論である。製品輸入から始まった産業で、当該製品の生産が行われるようになり、やがては輸出が行われるようになる、という後発国がたどるキャッチアップ型の経済発展論である。そして、技術の革新と伝播・移転に着目するのである。戦後、小島清氏により、多国籍企業が海外直接投資(FDI)を実施することにより、途上国での経済成長が加速されることが組み込まれるようになった。そして大来佐武郎氏によって政策担当者も参加する国際経済会議の席を通じて普及されていった。
現在、ヴェトナムの経済発展が目覚ましい。西洋の研究者たちから、「ヴェトナムの経済発展は日本とよく似ている」と何度か言われている。もしやと思っていたのであるが、やはり1986年のドイモイ(刷新)政策開始以降、ヴェトナム出身で日本で教育・訓練を受けたトラン・ヴァン・トウ氏が経済政策の助言者の一人として活躍してきたのであった。同氏は学部生時代に小島氏から指導を受け、その時から雁行形態論と日本の工業発展史に染まっていたのである。雁行形態論はヴェトナムの経済発展のために使われ生かされてきたのである。
先日都内で行われた氏の最終講義では、さらに、要素賦存の相違により特徴づけられて国際貿易が展開すると主張するヘクシャーとオリーンの定理を組み合わせて、政策提言に使われていることが示唆されていた。雁行形態論は、『はしごを外せ:蹴落とされる途上国』(原著 2002年)の著者ハジュン・チャン氏の用語法に従えば、歴史や経験の観察による「歴史的アプローチ(historical approach)」から生み出された理論である。またこのタイプの理論は、後験的(a posteriori)理論と呼ぶことができ、先験的(a priori)理論とは区別される。
リカード(自身)の比較生産費説は、比較優位のある産業に特化して(自由に)国際貿易をすれば世界の生産量が増加することを主張するが、国際間の比較優位構造の変化は考えていないようである。そのため少なくとも東アジアの途上国は、「農業国のままではいたくない」「(現在)比較優位はなくとも、工業化したい」と叫び、「リカードは間違っている(Ricardo is wrong.)」と批判の的にしてきた。上のチャン氏は、現在の先進国が途上国だった時期に実際採用してきた諸政策を調べ上げ、日本や新興経済群が採用してきた諸政策と比べると、輸入代替や幼稚産業保護の政策は共通していることを発見した。そして、「現在の先進国が言うことではなく、してきたことを見るべきである」と主張するのである。東アジアの経済発展については研究途上である。東アジアについての多面的多角的な研究のさらなる展開を期待したい。
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