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2020-01-28 00:00
武力よりもマネーで戦う方が効率的だと考える米国
大井 幸子
国際金融アナリスト
年初からイラン情勢が緊迫化したが、全面的な武力衝突は避けられた。しかし、イラン政府がウクライナ航空PS752機を誤射で撃墜したことで、国際社会は再び騒然とした。このウクライナ航空機はロシア製で、部品は北朝鮮製と言われる。ウクライナはソ連崩壊後に核開発を引き継いだこともあり、イランの濃縮ウラン活動は、ウクライナ、ロシア、北朝鮮へとつながっている。
米国はイランへの経済制裁を強めた。核(武力衝突)よりもマネーで戦う方が効率的だと考えているようだ。戦争のやり方も変わった。2019/12/4付WSJの記事によれば、イランのインフレ率は36%。原油輸出は7割減少。イラン政府は昨年7月にデノミを実施し4桁も切り下げたが、通貨リヤルの下落に歯止めがかからず、株式や不動産価格は下落し、信用不安が高まっている。昨年の米国の制裁強化によってイラン国内のガソリン価格が急騰したことに市民が怒り、デモが多発している。反米感情が高まると同時にイラン政府への怒りも高まっている。また、同記事によると、IMFの推定ではイランの外貨準備高は、860億ドル(約9.3兆円)で、実際にはその1割程度しか現在アクセスできないとされる。仮に全額にアクセスできたとしても、イランは2020年に通貨や物価の安定に向けて外貨の2割を充てる必要があるが、イラン中央銀行は1年足らずの輸入代金しか手当できないという。
これほど国庫が枯渇する中、イランにとっての選択肢は、2つしかなかった。①核協議に復帰する(平和に向かう)か、②米国の同盟国や世界のエネルギー供給施設を攻撃する(戦争に向かう)か、である。イランは昨年、サウジ石油精製施設を攻撃するなど強硬姿勢を強めていた。そこに、トランプ大統領がイランのソレイマニ司令官殺害を命じた。この一件を機に、米国と戦争をするということはどういうことかを改めて考えさせられたイランにとっては、②よりもむしろ①、すなわち欧米との核協議に復帰する可能性もありそうだ。そして、この一件は、北朝鮮と中国への抑止力となったように見える。北朝鮮は昨年に「年内に米国と交渉する。さもないと・・・」と警告していたが、年明け以降は沈黙している。中国も台湾総統選挙で蔡英文氏が圧勝したが、これを静観し、米国との第一次貿易協議の合意に向けて動いている。
このように、核よりも金融力が外交交渉に役立っているようである。その源泉である米国の金融市場はどこまで好調でいられるだろうか。相場は「恐怖 Fear」と「強欲Greed」の間を大きく揺れ動く。市場参加者は、強欲に傾くとリスクオンで、積極的にリスクを取りに行く。また、恐怖に傾くとリスクオフで、一斉に安全資産に逃避する。米CNNが公表している指標である「恐怖と強欲インデックス」は、2019年年初には強度の恐怖に支配されていた雰囲気が、2020年の初めには極度の強欲に一変した様子を示している。いつ何時、針が触れるのか?この突発的なボラティリティーの高まりこそ、国際社会と金融市場のリスクである。
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