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2020-01-17 00:00
「ドルの覇権」の現在地と2020年の通貨戦争
大井 幸子
国際金融アナリスト
2019年は5月と8月に調整局面があったものの、株式相場は大きく上昇した。株式に加えて、債券と金(ゴールド)も上昇し、ありえない相場状況である。9月半ばにはレポ市場で短期金利が急騰し、マーケットはヒヤリとしたが、ブルームバーグ記事(12月26日付)によれば、FRBは年をまたぐ資金繰りのために2600億ドルを供給した。これで、年末のレポ金利急騰のリスクは回避された。FRBは10月末のFOMCで前倒しの利下げを実施し、さらに12月2日の週にFRBとECBと日銀が足並み揃えて、四半期ベースで3,000億ドル(月1,000億ドル!)の大規模な量的緩和を実施した。おかげで米国株は連日最高値を更新した。このように、FRBが過剰なまでに流動性を供給し続け、「適温相場」を持続させている。FRBのバランスシート(B/S)は過去10年でなんと3倍以上に膨れ上がった。特に、2016年のブレクジットとトランプ大統領登場で、マーケットは大きな政治的不安要素を抱えることになった。この政治的リスクを相殺するためにFRBは過剰な流動性を供与し、VIX指数の安定化に寄与した。S&P500 VIXが穏やかに推移していれば、マーケット参加者は積極的にリスクを取り(リスクオン)、レバレッジを高めるので、株価は上昇に向かう。
さて、このところ気になるのが、ムニューシン財務長官の発言である。FOXビジネスニュースの著名ジャーナリスト、ルー・ドブズ氏とのインタビュー(12月7日)で、財務長官は1.5兆ドルものドル札が世界中にばらまかれ、しかも100ドル札の8割が米国外に流通している実態を認めている。そして、その理由として「ドルが世界で最も信用力の高い通貨であるため」と強調している。100ドル札が世界にばらまかれ、貯め込まれる理由として、私はマイナス金利の影響があると考えている。銀行預金ではマイナス金利で資産が目減りしてしまうので、人々はドル札と金などのハードアセット(換金性の高い資産)をマットレスの下や自宅金庫の中に貯め込んでいる。いわば、世界がドルを「タンス預金」しているのだ。
利息を生まない通貨の行き先は暗号通貨・デジタル通貨なのか?中国は新たなデジタル人民元を発行しようとしている。人民元の国際化を目指す中国に対して、ムニューシン財務長官は「今後5年はデジタル通貨を発行しないだろう」と発言し、その上で「ドルの覇権」を強調したわけだ。
中露は米国債を売却し、金(ゴールド)を購入している。中露は米国からの経済制裁を受け、ドル決済を止められるなど不都合が生じている。中露は通貨戦争でも米と抗戦の構えだ。世界がドル札を「タンス預金」し続けることで、表で交換されるドル通貨が不足するという不可思議な現象が起こっている。この動きは何か新しい通貨体制への予兆なのか、余震なのか?おそらく2020年からその先が見えてくるのではないだろうか。
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