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2020-01-07 00:00
変化したイスラエルの安全保障政策と中東危機
久保 有志
公務員
さる1月2日、イスラエル国防軍は、同国が2019年の間にシリアにおける54箇所の目標を攻撃したと発表した。イスラエルは近年、隣国のシリアやレバノンのヒズボラに対し、イランの軍事拠点化を防ぐという目的で限定的な空爆作戦を実施してきていたが、これら諸国への軍事介入については明言しない立場をとっていた。ところが2019年になって一転、同国の首相、主要閣僚および軍の参謀総長といった安全保障政策の実践に責任をもつ面々が、一様に北部国境付近におけるイスラエルの軍事作戦を公表するようになっている。この事実をイスラエルの安全保障政策における継続性と変化という観点から考察したい。
中東の国際関係を専門とする立山良司・防衛大学校名誉教授によれば、国土が小さく、周囲を敵国に囲まれているイスラエルは、先制攻撃と報復作戦を基本的な軍事ドクトリンとして発展させてきたという。また、とくに前者は敵の攻撃力をできるだけ早く無力化し、当面の脅威を取り除き、かつ自国の領土が戦場になることを防ぐ目的で実践されてきており、1967年の第三次中東戦争がその典型例だという(『揺れるユダヤ人国家』、文春新書、2000年、pp.123-125)。中東の他の諸国が核兵器を保有することを阻止することを目的に、1981年にイラクの原子炉、2007年にシリアの核関連施設をそれぞれイスラエルが空爆して破壊した事例も象徴的である。2011年のシリア内戦後にイランは、武器支援や軍事基地の建設等のかたちでシリアおよびレバノンに浸透し、現地のイスラム教シーア派代理勢力を誘導して地中海への回廊の確保とイスラエルに対する攻撃準備を着々と進めるようになった。そのような中、イスラエルは、「イスラエルの抹殺」をイデオロギーとして掲げるイランが自国の国境周辺に拠点を構えるのを防ぎ、その脅威を文字通り取り除くために先制攻撃を行い、ヒズボラ等の敵対勢力から散髪的に受けたロケット弾攻撃に対して報復攻撃を行ってきた。こうしたイスラエルの政策は、同国の伝統的な軍事ドクトリンを踏襲したものであるといえる。
他方、最近の北部作戦の公表が示すようなイスラエルの安全保障政策の変化が意味することは、イランによる軍事的浸透と地域情勢の不安定化を背景として、伝統的な軍事ドクトリンをさらに強化した行動を取り続けるという意思と実践に裏打ちされた能力を見せつけることにより、自国に対する潜在的な敵対行為の抑止を図ろうとしている点である。イスラエルのコハヴィ参謀総長は、2019年12月に行われた国際会議において、「イランとの間で限定的な衝突が起こる可能性があり、そのための準備を整えている」と語った。イスラエルの国防エスタブリッシュメント達が言及するこれまでの成果と確固とした決意は、今後の応酬により戦線が本格的に拡大する可能性を示唆しているのである。
同参謀総長はまた、イスラエルが独力でもイランによる脅威を排除していく決意を述べた。そのような中、今般のイラクにおける米国の親イラン派武装勢力の排除はイスラエルにとって追い風となるという見方が大勢である。他方、米国がイランの革命防衛隊の司令官への攻撃を実施したことを明らかにし、イランの最高指導者が報復措置を取る考えを示している中で、「イランとその代理勢力」対「米国 およびイスラエル」の衝突の危険性が非常に高まっているのはいうまでもない。
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