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2019-12-24 00:00
日本国政府のRCEPインド支援が意味するもの
倉西 雅子
政治学者
インドが対中貿易赤字を理由として離脱を示唆したRCEPについて、日本政府はインドを引き留めるために躍起になっております。対印の具体的な支援策としては、インドの競争力を増すために、デジタル分野での協力、並びに、農業や漁業における生産性向上に努める方針が示されました。デジタル分野での協力については、インド市場において日本国のIT企業が現地企業と合弁事業を始めるに際し、数千万円の調査費等を補助する制度を設けるそうですが、インドのIT技術のレベルは日本企業の支援を要するほどに低いとは言い難く、インドをRCEPに呼び戻すほどの効果があるとは思えません。
日本のIT市場は中国企業に押され気味で、RCEPのインド参加は間接的に対中貿易赤字を減少させるというメリットは日本にとってあるかもしれませんが、これでは、中国がクレームを付けてくる可能性も否定はできません。WTO等の通商ルールでは政府補助は原則として禁じられていますが、自由貿易圏であるRCEPにあって、日本国政府の支援は、公正な貿易を歪める特定の国に対する公的支援と見なされかねないからです。農業や漁業に対する支援策も示されていますが、同様の問題があるように思われます。
これらから分かることは、自由貿易主義の理論の非現実性です。古典的な自由貿易理論では、政府が介入しなくとも自然に相互利益的な貿易関係が成立し、貿易収支の不均衡問題は起きるはずもないのですが、現実には、物々交換と同様に貿易にあっても相互利益が成立するケースは極めて稀なのです。しかも、日本国自身もインドと同様に対中貿易は赤字であり、RCEPが成立したとしても、規模の経済が強力に働きますので、必ずしも国際分業において有利なポジションが割り振られ、かつ、対中貿易赤字が改善するとは限りません。最悪の場合には、日本国は、単なる対中食糧供給国、あるいは、外国人向けの観光地に転落してしまうことでしょう。
おそらく、RCEP構想の発案者は日本国ではないのでしょうが、自由貿易理論が想定する国際分業では、最終的には国別の産業固定化にも行き着きます。日本国政府は、攻めばかりを考えている、あるいは、RCEPにおける配役に満足しているように見えますが、インドの離脱は、日本国に取りましても沈没しそうな危ない船から降りる、九死に一生のチャンスとなるかもしれないと思うのです。
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