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2019-12-21 00:00
(連載2)経済停滞を生む中間層の疲弊
中村 仁
元全国紙記者
米国の国際政治学者、コンサルタントのイアン・ブレマー氏は、先月、来日して、シンポジウムに臨みました。それに際し「グローバリズムの破綻」とのタイトルの論文を寄稿しました(11/3、読売)。「経済的な格差が広がり、一般の人たちは経済成長から利益を得られていない」と。「トップ 1%の富裕層が富を分け合い、残りの人たちを見捨ててきた。それへの不満が、あってはならないトランプ大統領を誕生させた」。ソロス氏と共通するところがあります。
資本主義のもとで広がる格差といえば、5 年前に出版された仏経済学者のピケティ氏の「21 世紀の資本」です。各国でベストセラーになりました。邦訳も 1 冊 6000 円の本がよく売れました。難解なのに「格差拡大」に共感する読者、研究者が多かったのでしょう。資本収益率「r」(リターン/株、不動産などの運用利益率)が経済成長率「g」(グロース/所得の伸び率)を上回り、格差が拡大する。資産を持つ人と、持たずに働くだけ人との格差が広がり、社会や経済の不安定化をもたらす。「累進税率の富裕税を導入すべきだ」と。
マルクスの「資本論」の現代版かと、騒がれたりしました。野党が選挙対策で使うのを、与党は警戒したようですね。野党が国会の審議でも取り上げ、研究会を設置し、中間層以下の有権者に訴えたら、インパクトがあったでしょう。野党はその絶好球を見逃した。不勉強、鈍感なのです。
最後に、日銀総裁を務めた福井俊彦氏の口述回顧(オーラル・ヒストリー)を日経がスクープ(11/29)しました。記者会見などで明らかにしなかった総裁の本音が語られています。現在のマイナス金利、ゼロ金利をどう考えるべきか、参考になります。「金利が 1%というのは、金利機能が働く最低レベル。それ以下になると、金利機能が働かなくなる」「金利機能を殺すと、経済の新陳代謝のメカニズムを弱める(非効率な企業、産業が温存される)」などの指摘は傾聴すべきでしょう。マイナス金利は長期化しそうですし、日銀総裁は「必要ならマイナス幅を拡大(深堀り)する」といっています。マイナス金利は政策当局にとっては大胆であっても、その言葉は、国民に「経済の悪い状態が長期化する」というイメージを与えています。マイナス金利、ゼロ金利と聞くと、国民は身構えて節約に走り、景気を悪くしてしまう。政策当局は「どういう道筋で、マイナス金利を終息させていくか」というメッセージも同時に送り続ける必要がある。それをせず、愚かにも、消費者心理を委縮させることに励んでいるようです。(おわり)
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