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2019-12-07 00:00
(連載2)中村哲医師殺害の報に接して
武田 悠基
日本国際フォーラム研究員
まず第1の可能性について。注目されるのは、現地に根を張る反政府組織のタリバンおよび「アフガン・IS」が犯行声明を出していないことである。とくに普段、現地で数多くのテロ攻撃をしかけているタリバンは、ときに自らの勢力維持のため、実際には関与していないテロ攻撃についてさえ、関与声明を事後的に出すことがある。最近では、現地の国際赤十字・赤新月社の活動などに対し、さまざまな妨害工作をしかけていたことも事実である。しかし、そのタリバンさえも今回は関与を即座に否定している。「アフガン・IS」も、今のところ犯行声明を出していない。いずれの組織にとっても、今回、犯行声明を出すことは、あまりにもリスクが大きいとの判断が働いたのではないか。
つぎに第2の可能性について。1979年のソ連侵攻以来、混乱の続くアフガニスタンにおいて、ナンガルハール州では、タリバン台頭の経緯もあって、国境をはさんでパキスタンとの緊張状態が続いている。パキスタンからすれば、隣国のアフガニスタンが発展し国力を増大させると、パキスタンは自国の安全保障上、最大仮想敵であるインドに加えてアフガニスタンと二正面で向き合う必要が生じるわけで、中村医師の活動によってナンガルハール州が発展すること自体、歓迎されるべきものではない。そこで同国の何らかの筋が今回の犯行に関与したのではないか、との指摘もなされている。今回、犯行に及んだ集団の中にはパキスタン訛りの人物がいたとの事件の目撃情報もあるようだし、市民が同国大使館前でデモを行った。
もちろん、いずれの可能性も、現段階では、まさに可能性の域を出ないが、こうした推論が容易に浮上する困難な環境において、中村医師が一連の活動を行っていたということ。それがどれほど尊いことであったかは改めて確認をしておく必要がある。今年は、国連高等難民弁務官としてアフガニスタンで活躍され、またアフガン支援政府特別代表であった緒方貞子氏が亡くなられ、そして今回、アフガニスタンの復興に半生を懸けて取り組まれた中村医師が凶弾に倒れた。アフガニスタンで広く敬意をもって認知されている日本人が二人亡くなったことになる。
緒方氏と中村氏に共通するのは、人類に対する深い愛情と連帯の念である。日本でもアフガニスタンでも、両氏を知る人々は党派を超えて最大級の敬意を表している。我々がいま考えるべきは、こうした偉大な先達の意思をどう具体的に継ぐべきかであろう。現代世界は、中村哲氏のような無条件の無私の貢献に対しても、非情な仕打ちが待ち受ける世界である。その冷徹な現実を前にして、なお「よりよき世界」を目指して文字通り命を懸けて取り組んでいく人間を一人でも多く世に送り出すこと。それが私たち日本人としての、中村氏、そして彼を守るべく行動をともにし、今回、凶弾に倒れた5人のアフガン人たちへの最大の弔いではないだろうか。(おわり)
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