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2019-12-05 00:00
(連載1)財政膨張派勝利の裏に都合のよい経済理論
中村 仁
元全国紙記者
安倍首相の「桜を見る会」批判が政界、国会の最重要の問題になっています。厳しく追及しなくてはならない政治的失態であるにしても、それどころでない深刻な事態が進行しています。日本ばかりでなく、主要国で財政膨張派が勝利し、経済の基幹である財政節度が後退を強いられているのです。それには国会は見向きもしない。野党ばかりでなく、テレビのワイドショー番組が大好きな「桜を見る会」騒動は、安倍政権が反省し、運営方法を改善すれば、解決できる問題です。それに対し、財政節度派の敗退は将来世代にツケを先送りし、さらに経済を混迷に追い込みかねない重大問題です。
主要国、特に日欧にとって、かつてのような経済成長の時代は終わった。低成長の中で財政節度を守ろうとすると、歳出抑制や増税が必要になります。財政節度は選挙で不利になるので、痛みを感じさせない金融政策に景気の維持の役目を押し付けてきました。与野党とも意に介さず、です。その結果がゼロ金利、マイナス金利の長期化で、それも限界に近づいてきました。黒田日銀総裁が得意とした「異次元金融緩和によるデフレ脱却」は、金利機能の喪失を招き、壮大な失敗になりました。最近は「リバーサル・レート」議論(金利を下げても金融緩和効果が反転し、逆効果を生む)が勢いを増しています。そこで再び、財政拡張論の登場です。「財政主導から金融主導へ」「それが壁にぶつかった」「再び財政主導への逆戻り」です。「政治的にはそれしか選択の道はない」「経済停滞が景気後退に迷い込み、バブルが破綻するより、目先は、まだまし」というのが本音でしょう。
まず米国です。2019年度の財政赤字は9840億㌦(107兆円)で、20年度以降はさらに膨張しそうで、「1兆㌦時代」の到来です。国防費の増加による歳出増大、大型減税などでトランプ大統領が財政赤字の膨張を主導しています。もっとも国債の利払い費を減らすために、金利引き下げを政策当局にしつこく要求しています。欧州でも、欧州中央銀行のドラギ総裁が退任時(10月末)に「異例の金融緩和の出口は遠のいた」と、語りました。出口の模索を断念しました。新総裁のラガルド氏も「新しいポリシーミックス(財政金融政策の協調)が必要だ。公共投資を増やすべきだ」です。金融の風景は様変わりになりました。
最も財政状態が悪い日本はどうでしょうか。安倍政権は19年度補正予算として、真水(国の直接支出)で10兆円を要求しています。災害復旧、日米貿易協定の発効に備えた国内農業対策、消費増税後の景気対策、さらには政治的失態をカバーしたいとする思惑が絡んでいます。年末に決まる来年度予算案は100兆円を超す見通しです。財政再建計画(2025年度に基礎的財政収支を黒字化)など気にかけていません。財務省、正統派の財政学者、多くの新聞論調が財政再建派だとすれば、敗色が濃厚です。(つづく)
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