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2019-10-27 00:00
(連載2)通商協定の作り方
緒方 林太郎
元衆議院議員
なお、「天皇陛下の批准」を要件としているにもかかわらず、国内法改正が全くない条約というのは珍しいが時折ある。気候変動枠組みパリ協定がそれに当たる。あれは国内法改正が一切無くとも国内実施が可能であるが、批准が要件になるため、国会承認条約であった。これは何を意味するかと言うと、国会審議で環境大臣が絡まないのである。すべて外務委員会だけで終わる。パリ協定の国会審議の際、当時の山本環境相が「出番が無いんだよ」とつまんなさそうにしていたのを覚えている。通商系の条約というのは、どんなものであっても、国会承認を要する条約になる。日本では「税を課すのは法律に依らなくてはならない」というルール(租税法律主義)があり、通商系の条約はどんなものであっても、国内法による関税の見直しが入る以上は、条約そのものは必ず国会に承認してもらわなくてはならない。訳も国内法もすべて整ったら、閣議決定をして、条約を国会に提出する。条約については、通常は「外務委員会(参議院では外交防衛委員会)」、国内法についてはそれぞれの委員会での審議となる。例えば、特許の関係の条約であれば、条約そのものは外務委員会、国内法については経済産業委員会という2つの審議が必要になる。この「どんな条約でも、条約である限りは外務省ががっちり握る」というのは、省庁間権限争いの火種になる事が多い。財務省は、税関係の条約はすべて自分達でやりたいと思っており、厚生労働省は、社会保障系の条約について同じ事を思っているが、長年に亘ってすべて外務省に拒まれている。そして、外務省贔屓になるかもしれないが、外務省が絡まない形で条約を作るのは絶対に止めた方がいい。
ここで法律と条約の違いが出て来る。日本国憲法上、条約締結権は内閣(行政府)の専権事項であると書いてある。そして、国会においては、政府が署名してきた条約を承認するかどうかだけであって、法律案のように修正することは出来ない。つまり、国会に求められるのは「Yes or No」を言う事だけである。条約審議については、法律案であれば生じる修正協議に伴う苦労が一切ない。私は何度も法律案の修正協議をやった事があるのでその違いがとてもよく分かる。これが、国会において「外務官僚は態度が不遜である」と言われる一因だろう。しかも、予算と同様に、衆議院で可決して30日後には自動承認である。外務省の中には、緩やかにではあるが「条約締結は内閣の専権事項だから、交渉中にあまり外からガチャガチャ言わないでほしい。最後に『はい』か『いいえ』かだけを言うのが国会の役割」という感情は確実に存在している。
ここまで準備しておいて残念であるが、大半の条約は、国会審議で大した質疑にならない。内閣法制局と詰めに詰めた想定問答集も大して使わない。テクニカルな租税条約、投資条約、社会保障条約を真面目に読んでいる国会議員を私は殆ど知らない。また、中身に入って質問している国会議員に至ってはほぼゼロである。大平三原則で国会承認条約になるものと、国会で関心を呼ぶものとの差はかなり大きいと思う。なお、私は外務省時代、国会議員から「明日条約審議なんだけど、何質問していいか分からないので考えてもらえないか」という要望を受けた事がある。おまけに「できればどんな答弁になるのかも教えてほしい」という要望すらあった。発注通り、質問と答弁を全部自分で作成して、その議員にきちんとブリーフに行った。当日の質疑時間は、脚本・監督すべて私のドラマのようであり、自分の課で中継を見ながら「はい、〇〇議員、次の問2、キュー」、「そこで政務次官答弁、キュー」とか言っていた。そういう事例は極端だとしても、1問だけ条約関連で質問したら、全く別のテーマに進んでいくというケースは稀ではなかった。大平三原則がある事から国会承認条約として提出されるが、殆ど誰の関心も呼ばず単に与野党の国会対策上の日程闘争のコマに過ぎなくなってしまう条約は結構多い。電話帳3冊分くらいの交渉をやって、国会承認に上げた通商関係の自由貿易協定で殆ど質疑が出ないというのは、担当している側としては実はちょっぴり寂しいものである。
それでも、国会承認は国会承認であり、衆議院、参議院の本会議で採決されると、当事者はとても嬉しい。承認されたことが嬉しいというよりも、自分の苦労の積み重ねが報われたような気持ちになる。その後は、日本国として条約に拘束されますという正式な通知をする事になる。批准、承認、受諾、加入と多様なやり方があるが、ここではその細部には入らない。条約の発効については条件が付いている事が多く、その条約が意味のある形で機能する条件が整わないと発効しないようにしているわけである(例えば、TPP12では、日本とアメリカが加わらないと発効しない事になっていた)。(おわり)
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