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2019-08-21 00:00
(連載2)WTOパネルでも、決着はつかない
緒方 林太郎
元衆議院議員
その観点から私が気になっているのが、措置を講じた初動の時点で日本政府関係者のコメントがブレていたように聞こえた事です。今は「いわゆる徴用工への対抗措置ではない」、「偏に安全保障上の措置」という言い方で統一されていますが、当初はいわゆる徴用工問題との絡みがよく整理の付かないまま発言されていたように思います。「徴用工問題への事実上の対抗措置」っぽく聞こえる言い方をしていた閣僚も居ました。政府部内で緻密にすべて調整しないまま打ち出された事を窺わせます。その部分は「言質」として取られており、パネルの時の証拠に韓国側は挙げてくるでしょう。もう少し政府部内で詰めてからやればよかったのに、と思います。
勿論、韓国側にも脛傷はたくさんあります。日本との協議に応じていないとか、違反事例があるのではないか、とか怪しげな部分は散見されます。一方、彼等も論点整理がかなり付いてきたようで、対外的には「一方的かつ恣意的」という表現で統一して来ています。私が当初から書いているように「制度の運用が公平、公正でない(と言われる可能性がある)」という所に完全にフォーカスを当てています。通商を専門にしている人間なら必ずそこに行き着くのです。つまり、韓国はその論点でパネルに話を持ち込むという事です。日本の輸出管理制度そのものに一切チャレンジせずに、その制度の運用の恣意性にチャレンジしてくるはずです。この時、「恣意的」であるという主張をしてくるのに対して、「恣意的ではない」という反論を日本はするわけですが、構図として挙証責任は日本側に重く乗るでしょう。一般論として、「・・・である」を説明するのは一つ事例を示せばいいですが、「・・・でない」を説明するためにはありとあらゆる観点から違う事を言わなくてはいけません。
最近、マスコミでは「日本が優位」というような論調ばかりが強調されます。NHKが「アメリカも日本の立場に理解」といった報道をしていました。この「理解」は「単に日本がそういう主張をしている事は知っている」とポンペイオ長官が言っただけなのに、それをあたかも日本の主張に好意を払ったかのように報じるNHKのレベルはかなり下がったものだと思います。諸外国の動向や報道を見ていても、日本に圧倒的に好意的だという事実はありません。国内の世論形成のあり方がちょっと奇妙だと強く感じます。「ムン・ジェイン大統領は幼稚だ」、「いつまでも韓国のダダこねに付き合う必要は無い」、「ガツンと言う時は言うべき」、すべて同感です。私もそう思います。ただし、この輸出管理の強化のWTOでの戦いについては、そう楽観視しない方が良いと思います。
ただ、勝つにせよ負けるにせよ、このパネルは終審ではないという点も押さえておきましょう。というのも、パネルで判断が出た後、第二審の上級委員会に上訴するという可能性があるからです。パネル判断で負けた国はそうするでしょう。ただ、近々上級委員会は機能不全になります。その時は「パネル判断は出たけど、最終審の判断は出ない」という状態が継続する可能性が高いです。パネルで勝った国は「うちの正当性が示された」と言い、負けて上訴した国は「最終判断は出ていない」と主張するでしょう。結局、このゲームは「解決しない」というシナリオに向かって走っているのかもしれません。(おわり)
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