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2019-07-01 00:00
「デジタルファシズム」という名の文革
大井 幸子
国際金融アナリスト
米中貿易戦争はますます深刻さを増している。5月17日に米商務省はファーウェイを輸出管理規則に基づく禁輸措置対象リストに入れたと発表した。リストには世界各国のファーウェイ関連企業69社が含まれる。この中で特に重要なのがハイスー(HiSilicon)社で、世界第2位のファブレス半導体企業である(参考文献「中国製造2025の衝撃」遠藤誉著)。さらに、米国由来の部品・技術を使って日本や他国で製造してファーウェイ関連リスト企業に輸出することも禁止される。筆者は、昨年12月14日記事でファーウェイCFO逮捕に関して、今後は製品のボイコット、取引市場から締め出しといった厳しい措置がやってくると記した。そして、現実は、ファーウェイと関わる米中以外の国にとばっちりが来ている。このように米国の制裁がエスカレートするにつれ、中国は大国の体面を保つべく国内に向けて益々締め付けを強化しているように見える。これまでも中国政府は人権派弁護士などを抑圧してきたが、ここにきてリベラル派エコノミスト達までもがその標的となっている。この先、中国の体制はどこまで突き進んで行くのだろうか?
20世紀にソ連やその衛星諸国で社会主義・共産主義による国造りという壮大な実験が行われたが、ことごとく失敗した。経済が疲弊し、国民の生活が成り立たなくなり、国家体制が崩壊したからだ。ソ連はソルジェニーツィンが描いた「収容所群島」だったし、原始共産主義を目指したポルポト政権は数百万人もの自国民を虐殺した。ベネズエラも石油という天然資源に恵まれながらも国家社会主義経済は破綻し、国民は食料を求めて国外に脱出している。
21世紀に、中国は共産党一党独裁を掲げ、一帯一路構想を実現しながら経済圏を拡大し世界を凌駕しようとしている。同時に、中国はデジタルファシズムという新たな全体主義を統治・支配の原理に据えている。そのツールになるのが「5G」やマイクロコントロールで、「量子暗号」が基本となる。独裁国家を統治する党に軍が直結している軍産複合体制では、デジタルファシズムは技術的に可能な段階にある。このまま進めば「人間が人間でなくなる」事態になるかもしれない。民主主義国家ではAIに仕事を奪われる程度で済むかもしれないが、もし、デジタルファシズムが支配してしまえば、それどころではない。国家に都合の悪い人間はAIに置き換えられるのだ。
人類の歴史が野蛮な状態から抜け出しここまで発展できたのは、ひとえに民主的な統治機構と市場経済が手に手を取って平和な市民社会を作り上げてきたからで、そこには個々人が心の拠り所というか、心の自由なスペースを内面に確保できる体制がある。そうした寛容性が社会で担保されなければ、「万人が万人の狼になる」というホッブス的な無秩序(宗教戦争や民族浄化、内戦などの)状態が恒常化して国は滅び、人心は荒れ果ててしまう。そして、「内面(良心)の自由」が抹殺されれば、当然人権もないし、独創的なイノベーションも産まれないだろう。デジタルファシズムは人類の危機である。米中冷戦の最中、神のいない国家では第二の文革が進行し、世界に拡散しようとしている。
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