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2019-06-19 00:00
(連載2)政治の召使になった財政理論の限界
中村 仁
元全国紙記者
さらに、日本で歳出が膨張しているのは、高齢化で社会保障費が膨張していることが最大の要因です。社会保障費(一般会計では34兆円)は最大の歳出項目で、好不況に関係なく増え続けています。社会保障制度の改革、消費増税による財源確保をしないと、圧縮できません。それにもかかわらず、財政再建計画も消費増税も先送りが繰り返されてきました。MMT理論もシムズ理論も、政策が転換点を迎えた時に、政治がきちんと対応できるかについてどこまで考えられているのでしょうか。
つまり、「入口」ばかり論じており、時期がきたら「出口」(方向転換)に向かえるのかが理論に取り込まれていません。「出口」の問題は、異次元金融緩和についてもいえます。異次元緩和による過剰なマネーが世界市場を覆い、「出口」に向かおうとすれば、株価が下落し、選挙で不利になる。貨幣数量説によるマネタリズムの問題点は、理論的な欠陥のほかに、いつになっても異次元緩和から抜け出せないことにあるのです。株価の下落を招く金融政策の転換を政治が嫌う。経済体質もカネ余りに馴染んでしまっており、政策転換はこの面からも難しい。だから金融政策の正常化がいつまでたっても進まない。異次元緩和に踏み込む前に、日銀の黒田総裁が「経済政治学」の視点から熟慮したとは思えません。
財政理論に戻りますと、米国の経済財政学者のブキャナン氏が「民主主義過程の財政学」(1967年)、「赤字財政の政治経済学」(1967年)という著書を書いています。財政主導型の景気対策を提唱したケインズ氏の理論が結局、膨大な財政赤字を作る原因となったことに対する批判です。要約すれば「現代の民主主義過程では、政府、政治はつねに公共事業などの人気取りのばらまき政策に走る。有権者も税負担のことを意識していない」となります。歳出増で税収が増えても、国債償還に回すのではなく、また使ってしまう。不況になればなったで、国債を増発する。財政赤字のアリ地獄です。日本の場合は公共事業より、膨張を続ける社会保障費が作る財政赤字が問題です。
50年前の「政治経済学」「経済政治学」は現在も生きているどころか、その当時より多くの国で財政赤字が深刻になっています。政治、行政が目先の政権の支持率のことばかり考えるからです。なぜ狭い視野でしか財政金融政策を考えないのか不思議でなりません。(おわり)
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