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2019-06-12 00:00
(連載2)日米通商交渉あれこれ
緒方 林太郎
元衆議院議員
鍵は「撤廃期間」です。今のTPP11では16年で9%ですが、①16年目まではTPP11と同じペースでやって、その後、アメリカだけ撤廃に向かって走るのか、②アメリカだけTPP11よりも早いスピードで撤廃に向かって走るのか、という事です。①だと当面はアメリカンビーフもオージービーフも同じ削減になり、例えば20年後や25年後の撤廃となるでしょう。②だと、オーストラリアやカナダからTPP11の再交渉を求められます。そして、多分、アメリカは②を要求していると思います。(余談ですが、WTO協定ではこういう通商協定の撤廃期間として妥当なのは「10年」となっているのですけど、最近は誰も守らなくなりました。しかし、TPP11での16年の撤廃期間後、日本がどうなっているかなんて分からないですよね。FTA/EPAを作る時にあまり長い期間を掛けるのは、私はあまり好きではありません。)
なお、私は最近「アメリカの選挙と通商交渉」というテーマに凝っているのですが、牛肉については「日本の多く売れるというのは激戦区へのテコ入れという意味合いは比較的低いが、牛肉が売れるというのは象徴的な意味合いがとても強い。」と思っています。テキサス、ネブラスカ、カンザス、アイオワ、コロラドあたりが主要生産州です。とは言え、2016年の大統領選挙で、コロラド(選挙人9人)は5%以下の差でクリントン候補に負けていますし、テキサス(選挙人36人)、アイオワ(選挙人6人)では勝っていますが、その差は10%以下です。気にはなるでしょう。どちらかと言うと、豚肉の産地の方が激戦区っぽく見えます。2016年選挙でミネソタ(選挙人10人)では5%以下でクリントン候補に負けており、ノース・カロライナ(選挙人15人)、アイオワ(選挙人6人)では勝ったものの前者は5%以下、後者は10%以下です。そして、コメはそこまでアメリカでメジャーな産品ではなく、民主党ガチガチのカリフォルニア州のサクラメント、共和党ガチガチのアーカンソー州が二大産地です。トランプ大統領から見ると「あまりダイレクトに選挙に響かない」となるでしょう。選挙に直結する豚肉や牛肉と比べると関心は格段に下がります。
また、防衛装備品で大量購入するF-35の最終組立は、すべてテキサス州のフォートワース。日本で最終組み立てをすると値段が高くなるらしく、完成品を購入する事にしたみたいです。フォートワースや周辺での下院選挙の状況を見ていると、共和党が強くはあるものの、民主党が握っている選挙区、2018年には激戦の上共和党が保持した選挙区もありますね。また、F-35の主要部品の生産地として、カリフォルニア州のパームデールがあります。ここは歴史的に共和党が強い地域でしたが、2018年には、激戦の末、民主党に引っくり返されています。正にトランプ大統領の現在の議会での苦境を作り出した選挙区の一つです。トランプ大統領的には取り戻したい選挙区でしょう。
このように日本との交渉は大統領選挙や連邦議会議員選挙とも密接に絡んでいると見るべきです。トランプ大統領は自分の選挙や共和党内での求心力維持にとても意を用いているはずです。トランプ大統領は安倍首相と話す時に、各農産品と選挙区事情が書いてあるペーパーを置いていると報じられていました。多分、上記のような話が簡単なメモになっているのではないかなと思います。日米通商交渉において、よく目を凝らしてみるとバレバレの密約があるのです。(おわり)
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