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2019-06-05 00:00
長期化する米中冷戦 世界経済、安全保障、そして大統領選挙の行方
大井 幸子
国際金融アナリスト
米中貿易閣僚レベルの交渉が5月9−10日に行われ、結果は物別れに終わった。交渉は、6月大阪サミットでのトランプ大統領と習近平主席とのトップ会談へ持ち越された。米政府は、直ちに総額5千億ドル(約55兆円)を上回る中国からの全輸入品に追加関税を課し、対中制裁「第4弾」として追加関税が課されていない約3千億ドル分への発動に向けた手続きに着手した。中国は報復措置に出る構えである。米中冷戦は、単なる国際貿易の問題のみならず、安全保障の問題、そして、米国大統領選挙が近づくにつれ国内政治の問題とも、複合的・重層的に絡んでいる。以下、整理して考えてみよう。
米中貿易摩擦が世界の貿易通商にとっては重大な懸念事項である。昨年2018年半ばあたりから貿易摩擦が激しくなるにつれ、米中間の貿易は250億ドル減少し、これは、世界の貿易量の0.5%にあたる(Oxford Economics 試算による)。今後、米国の制裁が厳しくなるにつれ、世界の貿易は縮小し、各国経済に影響を与える。ただし、マイナス影響だけではなく、中国への中間財を輸出してきたアジア諸国が中国中心のサプライチェーンから解放され米国へ直接輸出することで「漁夫の利」を得る、こうしたプラスの影響もある。米中間の貿易でこれまでの影響についてまとめてみる。米国から中国への輸出は30%減で、このうち三分の一は農産物と原材料だ。米国内の農業生産者にとっては売上が6割減といった大打撃となっている。また、米国国内では安い中国製品への需要は強いものの、昨年からの関税障壁のため中国からの輸入品はマイナス9%となっている。中国からの輸入品の価格は上昇するので、消費者にとっては痛手である。トランプ減税の効果も薄れて行くとみられている。
しかし、全体では関税障壁に支払う米国の経済コストは、GDPの0.1~0.6%程度と試算される。この程度であれば、トランプ氏は中国への攻撃を続ける。「アメリカ・ファースト」を掲げ、貿易戦争を大統領選挙の争点とし、ラストベルト地帯の労働者に職を取り戻す公約を強調するだろう。総じて、貿易戦争が長引けば、米国よりも中国経済にとっての打撃の方が大きい。輸出企業の倒産が増えれば、中国の株式相場、信用市場への打撃は大きい。加えて米国からの農産品を輸入している中国では関税障壁で食料品価格が上昇する可能性がある。食料品価格の高騰や失業増加は社会不安に直結するリスクが高い。
米中における安全保障上の問題に関して、トランプ大統領は、中国が米国から優れたIT最先端の技術を「盗んだ」と怒りを露わにしている。実は、中国が宇宙戦(電磁空間)で覇権を取ることは、米国の安全保障にとって死活問題なのだ。目下、米国の国防費(2018年)は75兆1800億円と世界1位で、2位の中国(約18兆円)との差は大きい。(ちなみに中国の国防費は日本の3.6倍)しかし、習近平は人民解放軍の改革・近代化を実施し、サイバー上の戦いに備えている。中国は5Gをてこにビッグデータを独占し、電磁空間で優位に立とうとしている。米国は何としても阻止しなければならない。最後に、米国国内での利権闘争についても触れたい。トランプ大統領の前のオバマそしてクリントン政権時に、民主党は中国にIT関連技術を供与し、中国との利権を握ってきた。トランプ大統領は国内の既得権益とも戦わなければならない。自ら弾劾のリスクと戦いつつ、どこまで頑張れるか?次の共和党の大統領候補は、ペンス副大統領かもしれない。
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