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2019-05-31 00:00
北方領土を対中政策の具とすることなかれ
倉西 雅子
政治学者
米中関係が悪化する中、ロシアとの関係については、対中政策の意味合いにおいて関係改善を求める意見も聞かれるようになりました。仮に、両国間の対立がエスカレートして第三次世界大戦に発展した場合、共に核を保有する軍事大国である中国とロシアの連携だけは何としても避けたいからです。
昨今、日本国政府が積極的に北方領土問題の解決、並びに、平和条約締結に向けてロシアと歩調を合わせるようになったのも、その背後にロシアを日米同盟側に引き寄せておきたい思惑があるのではないか、とする憶測もあります。対ロ関係の改善を急ぎたい安倍首相も、本心では北方領土問題は色丹と歯舞群島の二島返還を以って手を打ちたいのかもしれません。しかしながら、中ロ間の離反のために北方領土問題で妥協することは、後世に禍根を残すことになるのではないかと思うのです。
その主たる理由は、たとえ日本国側が全島返還の原則、否、国際法上の正当な領有権を放棄し、ロシアに北方領土を割譲したとしても、永遠にロシアを中国から遠ざけることはできないからです。仮に、中ロ間の軍事同盟の禁止に法的な効力を持たせようとすれば、平和条約の条文に対中同盟禁止条項を書き込む必要がありましょう。ロシアが北方領土の返還条件として、同地域に米軍基地を置くことを禁じるように。しかしながら、ロシアがこの要求をすんなりと呑むとは思えません。否、一時的には合意したとしても、状況次第であっさりと反故にされてしまうリスクの方が高いのです。第二次世界大戦にあっては、日本国の敗戦が決定的になったのを見て、すかさず日ソ中立条約を破棄したという前例があります。‘永遠の同盟はない’とは逆に‘永遠の離反もない’のかもしれません。とりわけ、ロシアという国は、他国との条約によって自らの政策を縛られることを嫌うのではないでしょうか。
このように考えますと、北方領土を対中政策の具とするのは、あまりにも危険な行為のように思えます。ロシアを信じた結果、北方領土を永遠に失うのみならず、平和条約締結の主たる目的であった中ロ連携阻止も実現しないかもしれないのですから。しかも、近年の日本国政府は対中関係の改善にも積極的ですので、第二次世界大戦における陣営形成の離合集散と同様に、国民が望んでもいないにもかかわらず、中ロを中核とする全体主義陣営に引きずり込まれるかもしれないのです。日本国政府は、対ロ交渉に際してくれぐれも過去の失敗を繰り返さぬよう、慎重姿勢に徹するべきではないかと思うのです。
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