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2019-04-12 00:00
(連載2)米朝首脳会談決裂が示す独裁体制の限界
倉西 雅子
政治学者
日本国内でも忖度問題が政界を揺るがしていますが、一人の人間が全ての決定権を握る独裁体制ともなれば、同問題の深刻さは民主主義国家の比ではありません。軍事といった政策目的が明確であり、上意下達の指揮命令系統に適する分野では、リーダーへの決定権の集中は、戦略に従った迅速な組織的行動を可能とする効果的な形態ですが、今日のように、政治、経済、並びに社会といったあらゆる分野において政策領域が多様化し、様々な利害関係が複雑に絡み合い、かつ、政府も国民も民主主義、自由、法の支配、基本権の尊重、平等・公平といった諸価値の実現を求める現代の国家では(もっとも、政府については怪しい…)、独裁体制は、もはや成立不可能といっても過言ではありません。人間の能力を超えているのですから。
仮に、今後、北朝鮮が改革開放路線を選択するとすれば、現行の独裁体制の維持はさらに困難となることでしょう。先軍政治の時代には、軍事独裁体制の下で国家全体を恰も軍隊組織の如くに運営することができましたが、国民に経済活動の自由を保障し、市場経済が順調に発展すれば、通商政策、産業政策、金融政策、通信政策、エネルギー政策、インフラ政策、社会保障政策、福祉政策、雇用政策…など、様々な政策分野が出現しますし、それに伴い、警察・検察機構のみならず、民事上の争いを解決するための司法制度の整備をも要します。これらの分野における膨大な決定を、一人の独裁者が行えるはずもないのです。
以上に北朝鮮の独裁体制が曲がり角に至る可能性について述べてきましたが、その一方で、現代国家の特徴の一つが統治機能の多様化であるとしますと、現代の中国の動きには警戒を要します。統治上の諸価値の実現など眼中にない中国では、IT技術を駆使した徹底した国民監視体制の構築することで、共産党一党独裁体制、否、習主席独裁体制の維持を図ろうとしているからです。北朝鮮もまた、ITの導入には積極的ですので、中国に倣って情報・通信分野における先端技術を体制維持の道具としたいのでしょう。あるいは、自らに替ってAIに政治的決断を任せようとするかもしれません(AIが真に賢ければ、独裁者の退場を勧めるかもしれない…)。
しかしながら、政府の役割とは、国民に対する統治機能の提供という、いわばサービス事業の一種ですので、水も漏らさぬ監視体制の構築が、統治機能の質の高さを約束するわけでもありません。これらの諸国の方向性が、独裁者並びにその取り巻きといった、一部の特権層のみに権力も富をも独占させるとするならば、やはり、独裁体制に対する国民の不満は高まることでしょう。そして、中国であれ、北朝鮮であれ、今やテクノロジーが独裁体制維持のカギを握っているとしますと、自由主義諸国は、発想を転換させ―国民に対する監視から国民による自治へ―、国民のニーズや要望を統治機構に届ける新たな政治参加のシステムを開発するなど、先端テクノロジーの民主的な利用法を考案し、全体主義国家に対抗すべきではないかと思うのです。(おわり)
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