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2019-04-04 00:00
‘平和を脅かす研究の禁止’=‘平和を護る研究’ではない問題
倉西 雅子
政治学者
報道に拠りますと、日本天文学会は3月16日に「人類の安全や平和を脅かすことにつながる研究や活動はしない」とする声明を公表しました。同声明の背景には、近年、テクノロジーの発展によって宇宙空間が軍事的対立、とりわけ米中ロ間が覇権を競う前線と化している現状があります。天文学を取り巻く世界も、未知なる宇宙に思いを馳せてロマンに浸れる世界から、軍事大国が技術開発に凌ぎを削り、鋭く対峙するリアルな世界へと変貌しているのです。月の裏側の探索に乗り出した中国をはじめ、宇宙空間は、地球上の軍事大国による軍事目的での利用が急速に進んでいます。アメリカのトランプ政権も、宇宙軍の創設を唐突に発表して全世界を驚かせました。そもそも宇宙の軍事利用は、1980年代アメリカのレーガン政権によるSDI構想に始まるのですが、今では、月面に建設されたレーダー基地から全方位的な監視を受けたり、あるいは、月面発射型のミサイルや、宇宙空間を飛翔するレーザー兵器によって、上空から垂直的な攻撃を受ける可能性も否定はできなくなっています。どの国も、そして、如何なる人も、宇宙空間からの攻撃に晒されつつあるのです。宇宙時代の到来に危機感を強めた日本国の防衛省も、軍事応用可能な基礎研究に対して助成制度を発足させています。
宇宙戦争もSF小説の中での空想のお話ではなく現実にあり得る今日、日本国の天文学会も、こうした国内外の潮流に対して、改めて宇宙研究に対する基本姿勢を示す必要性に迫られたのでしょう。しかしながら、ここで注意を要する点は、‘平和を脅かす研究の禁止’は‘平和を護る研究’とは必ずしも同義ではないことです。‘平和を脅かす研究’の意味するところは他国を攻撃するような宇宙兵器の開発であり、同声明は、日本国の研究機関で開発された宇宙技術が‘侵略’を支えるようなことがあってはならない、とする基本方針の表明なのでしょう。この方針は、2017年に公表された日本学術会議の方針とも一致しています。しかしながら、日本国の自衛隊が、将来、他国を‘侵略’する事態は起こり得るのでしょうか。むしろ、他国から‘侵略される’可能性の方が遥かに高いのが現実なように思えます。中国の宇宙技術の開発こそ、まさに‘侵略’、あるいは、‘恐喝’が目的であり、日本国は、宇宙空間に設置された中国のハイテク兵器によって、無防備なまま一方的な攻撃を受けかねないのです。
日本国政府は、憲法第9条の下で専守防衛に専念してきましたが、仮に、同声明がいう‘平和を脅かす研究’が、全ての軍事転用可能な宇宙関連のテクノロジーを意味しているとしますと、今般の天文学会の平和に対する基本的なスタンスは、最も極端とされる憲法解釈である’自衛権の無条件放棄論’に近いと言わざるを得ません。日本学術会議の方針に沿っているとしますと、同学会は、防衛省の公募制度への協力を控えるよう全国の研究機関に呼びかけているとも解されます(その一方で、理化学研究所をはじめ、日本国の研究機関と中国の研究機関との間でのレーザー技術などの共同研究は野放しにされている…)。しかしながら、平和に対する脅威を取り除くために軍事力を使用せざるを得ないのは、古今東西の歴史が示す否定し得ない事実です。人類の平和を実現するためには、平和に対する脅威、即ち、侵略行為を阻止し、平和を護るためのテクノロジーを要するのであり、この意味において‘平和を脅かす研究’と‘平和を護る研究’は同次元にはないのです。
このように考えますと、日本天文学会の方針は、日本国民を侵略から護る防衛技術の研究を放棄したのですから、自国民に対して極めて冷酷で無慈悲な決定となりましょう。あるいは、敢えて‘平和を脅かす研究’と限定することで、‘平和を護る研究’を許容する道を残したのでしょうか。後者であることを祈るのみなのです。
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