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2019-03-06 00:00
日本企業のイギリス撤退と移民問題の’ちぐはぐ’
倉西 雅子
政治学者
先日、日本国の自動車メーカーであるホンダが、イギリスの工場を閉鎖する方針を発表しました。合意なき離脱の可能性があるブレグジットとの関係は否定されてはいるものの、現地のイギリスでは、BBCがトップ・ニュースとして報じる程の衝撃が走っているそうです。イギリスがEUから離脱すれば、同国を製造拠点として無関税で大陸のEU加盟国に自社製品の輸出を行ってきた企業が、これらの拠点を他の加盟国に移す動きが起きる可能性は以前から再三指摘されてきました。自動車であれば離脱後には10%の関税がかかり、価格面での競争力を失うからです。ホンダの工場閉鎖のニュースは、‘終にその時が来た’とする実感をイギリス国民の多くに抱かせたのかもしれません。テレビ報道の映像では、ホンダのイギリス工場で働いている従業員の人達も、インタヴューに答えて口々に失業への不安を語っていました。
マスメディアの論調では、ホンダの決断を外資系企業の撤退ラッシュの先駆けてと見做し、イギリス経済が壊滅的な衰退に向かうとする悲観論が大半を占めています。しかしながら、この問題、自由貿易や市場統合について、しばし考えさせられる問題点を提起しているように思えます。グローバリズムの波が押し寄せている今日、イギリスの問題は、全ての諸国にとりまして対岸の火事ではないのです。例えば、ブレグジットの最大要因が、EUにおいて‘人の自由移動’が原則として認められていることによる移民の増加であった点を考慮しますと、失業への不安は、どこか奇妙な印象を受けます。何故ならば、離脱決定当時、イギリスへの移民流入数は年間で30万人を超えており、増加傾向に歯止めがかからない状況にあったからです。ロンドンをはじめ、大都市では、移民の人口比が50%を越えており、外国人人口が高い都市や地域ほど、離脱支持票も多かったとされています。そして、この増加数は、イギリスにあって年間30万人程度の新たな雇用が生まれていたことをも意味するのです。
統計によれば、イギリスの失業率は2016年から2018年の3年間では5%を切っており、産業間移動が困難な失業者を想定すれば、決して悪い数字ではありません。仮にイギリスの雇用状況が良好であれば、たとえ日本企業を始め、外国企業がイギリスから撤退したとしても、当面は、失業率に対して然程の悪影響を与えることはないはずなのです(ホンダの英国工場の従業員数は凡そ3500人)。それとも、この数字は、外国人家庭の高い出生率を反映しており、雇用数とは全く関係はないのでしょうか(出生による自然増加となりますと、EUから離脱したとしても、移民問題の解決効果は期待できない…)。また、イギリスに進出した外資系企業が外国人を積極的に雇用していたとしますと、製造拠点の海外移転と共に外国人労働者も国境を越えて移動するだけですので、イギリス人の雇用には問題は生じないはずです。否、EU離脱を選択した国民の目的は、半ば達成されることともなるのです。
以上に、イギリスからの外資系企業の撤退と移民問題との関連を様々な側面から推測してみましたが、果たして、両者には、どのような因果関係があるのでしょうか。どこか全ての統計が‘ちぐはぐ’しており、説明に一貫性が欠けており、全体像が見えてきません。統計の数字とは、それを正確に分析しないことには、実際に、何が起きているのかを正確に知ることはできませんし、経済への影響を予測することも困難です。英国経済については、徒に騒ぎ立てるよりも、絡まっている様々な要因を慎重に解きほぐすような冷静な分析が必要なように思えるのです。
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