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2019-03-04 00:00
(連載1)自由貿易協定(FTA)の将来
緒方 林太郎
元衆議院議員
この20年くらい、世界の貿易ルールは自由貿易協定(FTA)が百花繚乱です。TPPも、日・EUもすべてはFTAの一部です。何となくそれに慣れてきているのですが、もう一度根本の所から考え直してみました。世界貿易の根本の所にあるルールは「最恵国待遇」です。第二次世界大戦後に作られたGATTの第1条に書いてあります。これは大まかに言って「どの国も特別扱いをしない。ある国に関税を下げたら、すべての国に同じだけ下げる。」というものです。これは戦間期の大恐慌後に、英仏が植民地を囲い込む「ブロック経済化」が進んで、それが世界経済の停滞をもたらした事への反省から、こういう仕組みが設けられたわけです。
経済学的に見て、ブロック化せずに均等に関税を下げていくというのが、世界全体の効用の増進には最もプラスになるはずです。また、実務的にも、ある品目に対しては、何処から輸入しようが決まった関税を課す、という事が一番簡単です。ただ、GATTの中には、この例外が定められています。代表的なのは、GATT24条の「関税同盟」と「自由貿易地域」の規定です。関税同盟というのは、域内貿易を自由化し、域外(関税同盟に入っていない国)に適用する関税も統一するという仕組みです。EUがそれに当たります。自由貿易地域とは、域内貿易を自由化する事のみで、域外への関税適用を統一する事はしません。これがFTAに当たります(安倍総理は最近、こういう定義に抵抗していますが全く以て無駄な事です。)。つまり、GATT24条は「あなただけ関税を下げます」というのを可能とする、例外になるわけです。なお、これ以降は簡略化の観点から、「関税同盟」と「自由貿易地域」を「FTA」と纏めて書いていきます(論旨は一切変わりません。)。
FTAについては色々な議論がありますが、経済学的には一種の「ブロック化」と見ていいでしょう。「あなたにだけ特別な待遇を用意しますよ。」というのは、その分だけ(相対的に関税が高くなる)域外からの貿易を排除する効果を持ちます。勿論、FTAを作るに際して域外への関税を上げる事は禁じられますから、ベクトルとしては「自由化(関税削減)」の方に向いたブロック化です。なので、GATT24条においても、好き勝手やっていいというふうにはなっておらず、関税(その他の制限的通商規則)を実質上すべての貿易について撤廃するならOK、となっています。つまりは、「幾つかの国が経済圏として一体化して、モノの行き来に制限を全く掛けないくらいまで自由化を進めるのであれば、最恵国待遇の例外を作ってもいいよ」という事です。私は、このGATT24条の規定が想定していたのは、ベネルクス三国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)のようなケースじゃないかと思っています。国の規模がそれ程大きくなく、相互の行き来が普通に行われているので、ベルギーに住む人がルクセンブルグに買い物に行って、ベルギーに戻ろうとしたら(例えば対日本で課すのと同水準の)関税を取られた、というのは合理性を欠くので、厳格なルールの下で最恵国待遇に穴を開けたという事なんだと思っています(なお、この件は国会で質問した事があります。)。
つまり、「FTAは経済学的には正当化しにくいブロック化なんだけど、経済圏として一体化するくらいまで自由化するなら、それはブロック化というよりは、経済的には一つの国みたいなものだからOKだ、それがGATT起草者の発想ではないかな」と思うのです。この理屈くらいしか、第二次世界大戦直後にFTAを正当化する理由は無かったでしょう。しかし、その後、このGATT24条はそういうスコープを超えて発展していきます。しかも、経済圏として一体化するに至らないようなものまでを含むような形のものが増えて来ました。上記で「関税(その他の制限的通商規則)を実質上すべての貿易について撤廃するならOK」と書きましたが、この「実質的に(substantially)」について「実質上という事は例外ありだな」と解釈して、その例外をどんどん広げていく動きが出てきたのです。私が大学で法学を勉強した際、「例外は限定解釈する」という法の一般原則を教えられたのですが、「例外を拡大解釈する」のがこの世界では大流行りです。(つづく)
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