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2019-02-22 00:00
(連載2)移民問題は‘サイレント・キラー’か
倉西 雅子
政治学者
グローバリズムの急速な拡大によって、無視されがちな一民族一国家の原則が確立した理由は、民族自決の原則と結びつくことで、国家の独立性を一層強化する方向に働くからです。これらの原則が存在しない時代こそ、「軍事大国による征服や侵略が許され、異民族支配や植民地化が横行した時代であった」とは歴史的な事実でもあります。
そして、民主主義もまた、民族の枠組が消滅したのでは、自治権という意味での意義を失うことになりましょう。言い換えますと、強く意識はされていないものの、今日の国際秩序も国内秩序も、その多くを民族という集団的な枠組みに依拠しているのです。
こうした事実に思い至りますと、移民増加が、経済的な要因としての人手不足解消や、リベラル派が主張するような、外国人の人権保護や多様性の尊重といった問題に、単純には矮小化できないことが分かります。移民の増加によって国内の人口構成が変化すれば、今日の人類社会の秩序を内外から支えてきた大前提が崩れるからです。この視点からしますと、移民問題は、国家や国民国家体系に対するいわば‘サイレント・キラー’なのです。
移民推進派の政府やメディアは、受け入れ側の国民に対して変化の受容を求めますが、その変化こそ、国内外の秩序の崩壊であった場合、素直に首を縦に振ることはできないはずです。最悪の場合には、国際レベルでは企業を主体とした植民地主義の犠牲となるか、あるいは、国境の消滅に乗じた現代の帝国、即ち、軍事大国によって侵略されるかもしれないのですから。また、国内にあっても、民族間の軋轢や対立による社会的分裂や治安の悪化に苦しむかもしれません。移民問題を過小評価してはならず、真に直視すべきは、同問題が引き起こす、各民族に集団的な国家に関する諸権利を認めた、国民国家体系そのものの崩壊危機ではないかと思うのです。(おわり)
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