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2019-01-31 00:00
(連載1)‘世界の警察官’なき世界の行方
倉西 雅子
政治学者
2013年9月10日、当時のオバマ大統領は、シリア内戦に関連して‘世界の警察官’の役割を放棄する旨を表明し、国際社会に衝撃が走ることとなりました。この時から5年余りを経た今日、トランプ大統領もまた、シリアからの米軍撤退に関連して‘世界の警察官’を続けることはできないと宣言しています。オバマ前大統領の外交路線を否定していたものの、‘世界の警察官辞任方針’だけは継承するようです。
第二次世界大戦後の国際秩序を担ってきたのが‘世界の警察官’のリーダー格であったアメリカなだけに、その不在は国際社会に深刻な影響を与えざるを得ません。一般社会にあっても、警察がいなくなれば犯罪者の取り締りができなくなるのですから、一般の善良な人々が邪悪な人々の餌食となります。国際社会にあっても、‘世界の警察官’が消えてしまうと、軍事力に劣る諸国は、覇権主義の野望を抱く軍事大国によって支配されるリスクが格段に高まります。それでは、‘世界の警察官’なき世界は、どのような状態に至るのでしょうか。
第一に懸念すべきは、アメリカの‘世界の警察官’辞任と同時に、国連もまた機能不全に陥る点です。国連の制度は、第二次世界大戦における連合国戦勝5ヶ国、即ち、‘5人の警察官’を前提として設計されています。発足とほぼ同時にロシアと中国は‘警察官’の役職は名ばかりとなりましたので、今般のアメリカの役割放棄は、いわば国連の致命傷となりかねないのです。あるいは、アメリカの辞任をチャンスとばかりに、ロシアと中国が‘世界の警察官’への復帰を宣言するかもしれませんが、この展開は、暴力団が警察の職務を引き受けるようなもので全く以ってナンセンスです(自らの犯罪は決して取り締まらない…)。
国連における‘世界の警察官’の役割が5大国に特権を与えているとしますと、警察の職を降りることは、同時にこれらの特権を返上することを意味します。国連安保理での事実上の拒否権に加え、NPT(核拡散防止条約)上の核保有国としての特権をも失うことになりましょう。義務を果たさない、あるいは、果たせないのであるならば、特権を認める根拠も失われるからです。(つづく)
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