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2019-01-28 00:00
戻らぬ北方領土を選挙利用する政治
中村 仁
元全国紙記者
北方領土問題を含む平和条約交渉について、先日1月22日の日ロ首脳会談は何の進展もないまま終わりました。安倍首相は「相互に受け入れ可能な解決策を見出す決意を共有した」と述べ、菅官房長官は「2019年における日ロ関係の素晴らしいスタートになった」と総括しました。政治は建前しか語らないことが多いので、このような発言になったのでしょう。それにしても、期待値だけ高める政治手法に国民は「もういい加減にしてくれ」という気持ちでしょう。国際情勢、ロシアがどうなっているか分からない数十年先はともかく、ロシアには4島はおろか2島を日本に返還するつもりすらないことが、ますますはっきりしてきました。領土返還をあてにしないで「ロシアは4島の不法占拠を続けている。一括返還すべきだ」との批判だけは続けるという姿勢のほうが賢明です。
私はこれまで、「北方領土は戻らず棚上げのままか」(本e-論壇2018年11月27日掲載)、自分のブログの別稿で「領土返還に共同経済活動は逆効果」(2017年7月2日)、「領土の返還拒否と同然の露大統領」(2016年12月16日)、「北方領土の日ロ対立を米国は歓迎」(2015年9月23日)などと、指摘してきました。それが昨年から、安倍政権が4島から2島(歯舞、色丹)返還に方針を転換し、これならいかにも実現できそうな見通しであるような雰囲気を盛り上げてきました。「日ロ交渉、消えた4島、平和条約巡り連続会談」(2018年11月25日、日経新聞)、「領土交渉、トップダウン、日露新枠組み」(同年12月3日、読売新聞)、「日露で賠償請求権放棄案、平和条約締結時に、日本提起へ」(2019年1月8日、読売新聞)などです。官邸が情報をリーク、示唆し、メディアを誘導したと考えます。春の統一地方選、夏の参院選を念頭に、国民の期待感を高めようとしたのでしょう。結果はどうだったか。「短期決着の展望は開けそうにない」、「返還への期待がしぼんだ」と、各紙の社説は書いています。期待値を高めるほど、ロシアは「経済協力や投資拡大が必要だ」と、対日要求を釣り上げてきました。首相が自分の任期中(2021年9月まで)に区切りをつけたいとか、選挙対策に使おうとか思っていると、高値をつかまされるだけでしょう。
ロシアが返還に応じそうにないのは、「第二次世界大戦に参戦して、その勝利の結果として北方領土を獲得」、「軍事基地を置き、太平洋への通路を確保」、「1.6万人のロシア人が居住」、「水産加工工場を運営」、「石油・天然ガス資源が存在する可能性」、「返還に応じた場合、国内でプーチン批判が高まる」などと思っているからでしょう。返還をあてにしないで、ロシアの不法占拠を告発し、国際世論にも訴えていくことが賢明です。実際に2島が返還されても、旧島民はほとんど帰還しないでしょう。一方で、ロシア住民(3千人)への補償、施設移転の費用はもちろん、極東地域への経済協力など、財政危機の日本にいくらカネがかかってくるか。ロシアは返還した島に米軍基地を置くなと、要求するでしょう。対ロシアのために基地をおくなら、北海道本土でも可能でしょうけれど、日本領土の島に米軍基地の設置を認めないなどの例外を作ることはできるのでしょうか。返還されたら、日本も困ることになりかねないのです。
日本は北方領土問題をこじれさせまいとして、ロシアに遠慮し、たとえば、ウクライナのクリミヤ併合問題でロシア批判を控えてきました。日本はみずから手足を縛っているのです。返還交渉がほとんど進まず、展望が開けない現状に、むしろほっとしている関係者も多いに違いありません。棚上げしたままの状態を続けるしかないように思います。
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