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2019-01-09 00:00
政府の保護責任問題
倉西 雅子
政治学者
先日、新たな在留資格を設ける入管法が改正されたことで、特定技能1号、並びに、同2号の資格取得者に対する日本国の社会保障制度の適用問題が持ち上っております。この議論に際して、しばしばメディアに登場する意見は、日本国は、1982年に難民条約に加盟しているため、内外差別なく日本人と同等に扱うべき、とするものです。つまり、この見解に従いますと、社会保障制度における外国人に対する内国民待遇は、日本国の義務となります。社会保障制度における外国人に対する待遇の問題は、今般、新設された在留資格のみに限らず、永住資格、特別永住資格、高度外国人材、特定技能外国人実習生、並びに、留学生等、全ての在留資格にも関わるのですが、少なくとも今般の入管法改正と難民条約は、以下の理由から、無関係なのではないかと思うのです。
第1に、入管法の正式名称は「出入国管理及び難民認定法」であり、確かに‘難民’の二文字が見えます。しかしながら、日本国政府は、従来、難民認定には消極的であった経緯がある上に、今般の入管法改正の目的は、表向きであれ、国内の労働力不足を理由とした外国人労働者の受け入れ拡大です。つまり、新資格の認定者とは、政府が難民認定を受ける外国人ではなくあくまでも‘外国人労働者’なのです。しばしば、貧困等を理由に外国に移住する人々を‘経済難民’と呼ぶケースがありますが、こうした俗称は、国際法上の難民を意味するわけではありません。
第2の理由は、難民とは、出身国の政府による保護を受けることができない人々である点です。難民条約とは、政府の保護対象から外され、さらには、迫害さえ受ける恐れがあり、常に危険に晒される身となった人々を救うために作られた人道法なのです。無保護状態にあるからこそ、同条約では、第24条において労働法制や社会保障に関して難民を内国民待遇するよう定めているのです。一方、入管法が対象としている‘外国人労働者’を始めとした在留外国人の人々は、国籍国政府の保護を受けています。今般の新資格に限っても、政府は、送り出し国との間で協定を締結すると報じられております。つまり、来日する‘外国人労働者’は、無保護状態にあるのではなく、自国民保護を意味する出身国の対人主権が及んでいるのです。関連して第3に、経済的理由によって日本国に居住する在日外国人は、本国の社会保障制度に加入する資格をも有している点を挙げることができます。社会保障制度における外国人の二重資格問題は、しばしば‘二重払い’となるため外国人に不利な待遇として改善が求められてきましたが、その反面、受け入れ国となる先進国と送り出し国の立場にある途上国との間に経済格差が存在する場合には、移民受け入れが先進国側の社会保障負担を増加させる原因としても指摘されてきました。属人主義と属地主義が整理されずに混在しますと、‘二重払い’ではなく‘二重取り’や‘いいとこどり’あるいは‘フリーライド’もあり得るからです。出身国政府の保護対象から外された難民にはこのような問題は存在しませんが、経済的目的で来日した在留外国人に関しては、資格の二重問題が生じるのです。
以上に難民条約が入管法と無関係な理由について述べてきましたが、社会保障制度とは、政府が運営の主体となりつつも、生涯において直面し得るリスクを低減させるために、国民自身が強く要望する形で設立された制度であり、その財源の主たる負担者も国民です。この側面は全ての諸国に共通しており、第一義的な個人に対する社会保障の責務は、国籍国の政府にあると考えられるのです。社会保障制度における外国人の加入や待遇を論じるに際してもこの面を無視することはできず、日本国政府には、送り出し国側の社会保障制度の仕組みや個々の来日外国人の資格状況を把握する必要があるはずです。少なくとも経済目的の来日であるならば、加入対象を厚生年金や労災保険といった就労を前提とした制度に絞るのも一案ではないかと思うのです(一方、国民年金、医療保険、介護保険、その他福祉給付政策等の国民向けの制度については、原則として出身国の政府が国民保護義務を果たす…)。また、社会保障制度に関する二重資格の問題は、日本国のみに限られてはいませんので、国際レベルでのルール作りも急務なのではないでしょうか。
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