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2018-12-25 00:00
(連載2)「合意なき離脱」の可能性
緒方 林太郎
元衆議院議員
極めてざっくりと言うと、アイルランド・北アイルランドの間に線を引くか、アイルランド島とブリテン島の間に線を引くか、という問題です。英国政府はどちらも嫌なんだけど、それと「ブレグジット」は相容れないので、その兼ね合いに苦しんでいるという事です。このままだと、合意案は議会を通過しないでしょう。来年に延期しても、再交渉でもしない限りは無理だと思います。現時点では、EUのユンカー委員長も主要国の首脳も、再交渉に反対しています。ただ、マクロン・フランス大統領の発言を聞いていると、「合意を議会で通すために何が必要なのか、メイ首相から話を聞いてみたい。」といったフレーズもあり、100%再交渉の余地なしではないのかな、という印象も抱かせます。
さて、(バックストップ案を含む)合意が議会で賛成を得られない場合は「合意なき離脱」になります。これは分かりにくいかもしれませんが、簡単に言うと、「EUとの関係で、英国は日本と比較しても遥かに不利な条件に置かれる」という事です。日本は来年2月にEUとのEPAが成立しますが、英国が合意なき離脱をしてしまうと、そういう特別な関係が全くない状態で放り出されるわけです。EUは(日本を含む)世界の多くの国と自由貿易協定を締結していますが、そのネットワークの外に置かれてしまいます。したがって、バックストップ案の話を前述しましたが、合意なき離脱ですと、強制的にアイルランド・北アイルランド間の貿易に関税が生まれ、(本当にやるかどうかはともかくとして制度上は)製品検査等のスポットを作らざるを得なくなります。日本企業としても、英国を含んだ形でのサプライチェーンはすべてブツっと切れてしまいます。英国にモノが出入りする際に関税が掛かり、そして、原産地規則で複雑な事になります。また、金融ではこれまでEUとの関係でシングル・パスポートの仕組みがありました。これはEU加盟国のいずれかで免許を取得した金融機関は、他のEU加盟国においても金融商品の販売や支店設立などの業務が認められる制度です。これまでは、英国で免許を取得していた日本の金融機関が結構ありましたが、この仕組みに支障が生じるおそれがあります。
ゲーム理論的発想に立てば、今の合意案で想定されるバックストップではアイルランド・北アイルランドとの関係は微妙になるが、合意なき離脱だとそこは完全に切れてしまう、そうであれば、どっちを取るかという事になるはずです(普通は合意案を支持するしかないはずです。)。ただ、繰り返しになりますが、それで議会の同意が得られないのであれば、正にマクロン大統領が言っているように「何が必要なのか、メイ首相に聞いてみたい。」という事になるでしょう。他の欧州諸国首脳も、合意なき離脱だと英国のみならず、自分達の国の経済にもとんでもない事が起こるという事は意識しているでしょう。個人的には、再交渉は(大幅修正は無いとしても)あり得るのではないかと見ています。
ただ、合意なき離脱の可能性を排除する事は出来ません。その時はリーマンショックの比では無い衝撃が世界経済にやって来るでしょう。日本はそこに備える気持ちが必要です。リーマンショックの時、当初、当時の政権は「ハチに刺された程度」なんて呑気な事を言っていました。日本の金融機関はサブプライムローンをあまり持っていないし、大した事ないと踏んだわけですが、世界全体の経済が底抜けした事で日本経済は土砂降りになりました。今回も合意なき離脱がどう連鎖反応するか分かりませんので、最悪の事態を想定しておく方が良いと思います。誰もが望んでいないにも関わらず、各個人が自分の判断基準における合理的判断をしたら、全体として最悪の状態になるという事は歴史的に何度もあったことです。(おわり)
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