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2018-12-24 00:00
(連載1)「合意なき離脱」の可能性
緒方 林太郎
元衆議院議員
「ブレグジット」に関する英国政府とEUとの合意が暗礁に乗り上げています。合意案について議会採決が今月に予定されていましたが、否決のおそれが相当に強いため、来年に延期されています。メイ英国首相は、与党保守党の信任投票は何とか切り抜けましたが、相当の反対票が出た事から、今後も合意案の採決に明るい見通しが立っているわけではありません。一番、拗れているのはアイルランド(国家)と北アイルランド(英国の一地方)との関係です。英国が唯一陸路で国境を有する場所です。英国がEUの単一市場から抜けてしまうと、当然、アイルランドと北アイルランドとの間の物流には関税が掛かる事になります。それは国境管理を入れなくてはならないという事になりますが、これをやってしまうと、アイルランド紛争の再現になってしまいますので、苦しんでいます。
キーワードは「バックストップ(防御策)」です。来年3月29日の離脱後、移行期間の間に包括的な通商協定を結ぶ事になっています。ただ、それが出来なかった時に発動されるのがバックストップです。当初のバックストップは、合意案が成立しなければ、北アイルランドだけEUの関税同盟に残るという案でした。これだと、ブリテン島と北アイルランドの間に線(厳格な管理)が引かれてしまう事になり、一国二制度に近くなるという事です。さすがにこれはマズいという事で、包括的な通商協定が成立しない時は、英国全体が関税同盟に残るというバックストップになっています。しかも、バックストップからの離脱はEUからの承認が必要とされています。
これがEU離脱派の怒りを買っていて、このままでは結局離脱にならないではないか、事実上のEU残留と同じだという事で、保守党の中では盛り上がっています。また、自分達の運命をEUの承認に委ねる事への根本的な反発があります。関税同盟に残留するという事は、自由に通商協定をEU外の国と締結する事も出来ません(例えば、英国がTPPに参加する等)。ただ、それ以前の問題として、移行期間の間は、EUの制度が適用されるのに、欧州委員会、欧州議会、欧州司法裁判所からは撤退するという最悪の状態になります。「制度はすべてEUのものを適用。しかし、口は一切出せない。」という皮肉な状態になります。EUが嫌だから離脱しようとしたら、自分達が口を一切出せない形でEUに縛られる時期が生じてしまった、という事は大いなる矛盾です。
また、バックストップ案では、英国全体が関税同盟に残ると言っても、EUからは離脱しているので、制度等の面でブリテン島はEUとは違う規制が布かれることになっていきます。しかし、一方で北アイルランドについては、ほぼ従前のEUの仕組みが適用されるとなっているため、英国のその他の地域よりも強い関税関係でEUと結ばれる事になり、かつ、EU単一市場のルールや規則により足並みを揃えることになります。これは、やはり、アイリッシュ海に線が引かれてしまうおそれを意味します。ブリテン島から北アイルランドに入ってくるモノについては、(関税は掛かりませんが)EU規則上、何らかの検査が入る可能性があります。(つづく)
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