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2018-12-19 00:00
(連載2)世界を動かす「ニュー・プラスチック・エコノミー」とは
六辻 彰二
横浜市立大学講師
それでは、プラごみ規制にどんな利益が期待されているのか。単純化するため、ボトルや包装材など容器・包装類に絞って、その内容をみてみよう。『ニュー・プラスチック・エコノミー』は「壮大な挑戦」をともなうイノベーションの重要性を強調しているが、そこで念頭にあるのは(やはり日本の環境省が国内企業に推奨している)植物由来の新素材の開発といった技術分野だけではない。
つまり、ここでは世界全体で業種をまたいで、容器・包装類の形状、サイズ、素材などの規格を統一し、製造、輸送、リサイクルのコストを引き下げ、効率を高めることが示唆されている。技術革新だけでなく、流通システムの規格化でも先手をとれれば、世界市場で優位に立つことは言うまでもない。この野心的なプランは、既に動き始めている。例えば、ペットボトルを取り上げよう。コカコーラは9月、100パーセント再生可能なボトル開発で協力する企業グループに参入した。この企業グループはネスレやダノンが立ち上げたもので、コカコーラの「永遠のライバル」ペプシも加入しており、メンバーの多くはエレン・マッカーサー財団と協力している。現状ではプラスチックに特許がなく、どの国でも基本的に自由に、しかも安価に製造されている。しかし、素材や形状に統一規格ができれば、それを生んだ企業連合がコスト面などで圧倒的に優位に立つことになる。世界標準の座を占めたボトルの知的所有権を握れば、なおさらだ(『ニュー・プラスチック・エコノミー』では、新たに開発される素材や製品の知的所有権に関して触れられていない)。
日本では技術力を頼みにする傾向が強いが、既に市場ができている場合、技術的に優れているものが市場を握れるとは限らず、むしろ市場を握るものの技術がスタンダードになりやすい。既に世界の飲料市場で大きなシェアを握る欧米の企業連合が統一規格を生み出そうとするなか、日本の食品・飲料メーカーの方針はみえてこないが、念のためにいえばペットボトルは一つの例にすぎず、同じような状況は多くの業種で生まれている。
リサイクルのコストや石油の消費量を減らすことは世界全体のためになるが、そこから得られる利益には差が生じやすい。脱プラスチックのイノベーションは、その中核を占める企業に莫大な利益をもたらす。逆に言えば、プラスチック製品の裾野が広いだけに、国レベルでこの動きから孤立することは、ガラパゴス化の道と紙一重だ。独自に進化した日本の通信環境でスマートフォンの普及が遅れたことは記憶に新しい。環境省が旗ふりし、一部の企業や環境団体がそれに応じていても、経済産業省や与党にその気運が薄く、プラスチック業界だけでなく各種メーカーが総じて様子見の国内をみれば、スマートフォンと同じことが起こる見込みは小さくない。先述のように、日本政府は来年のG20サミットでプラスチック資源循環戦略を提案する予定だが、既に『ニュー・プラスチック・エコノミー』のもとに出来あがりつつある欧米主導の流れを引き寄せることは、まさに壮大な挑戦といえる。10月19日に発表された『プラスチック資源循環戦略(素案)』は、日本がこの分野での出遅れを挽回できるか、それとも大波に呑み込まれるか、あるいはガラパゴス化するかの行方を占う、一つの試金石になるだろう。(おわり)
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