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2018-12-18 00:00
(連載1)世界を動かす「ニュー・プラスチック・エコノミー」とは
六辻 彰二
横浜市立大学講師
プラスチック製ストロー廃止に向けたうねりのなか、日本でもプラごみ対策は徐々に広がっているが、世界の潮流はそれよりはるかに速く、大規模だ。そのため、携帯電話でそうだったように、プラごみ問題で日本がガラパゴス化する可能性もある。あらかじめ断っておけば、海洋汚染の問題や最大のごみ輸出先だった中国のごみ輸入禁止を受け、日本でもプラごみ対策は少しずつ進んでいる。環境省は7月、「プラスチック資源循環戦略」の策定に着手。これに続いて、8月にはプラスチックの代替となる紙製品や(植物を原料とする)バイオマスプラスチック製品を製造する企業の設備投資を支援するため、数十億円規模の補助金を交付する方針を、10月にはレジ袋の有料化の方針を、それぞれ固めた。その結果、「脱プラスチック」をビジネスチャンスと捉える製紙メーカーなどが、代替ストロー、食器、包装などの開発・販売に乗り出している。
こうした取り組みを踏まえて、日本政府はプラスチック資源循環戦略を年内に取りまとめ、来年6月に大阪で開催されるG20首脳会合で各国に提案する見込みだ。とはいえ、海外から押し寄せる脱プラスチックの波は半端な規模ではなく、この分野で日本がリーダーシップを発揮することは容易でない。そこには大きく二つのポイントがある。第一に、脱プラスチックのかなり包括的な方針が、既に欧米諸国で共有され始めていることだ。その中心にあるのは、2017年にイギリスのエレン・マッカーサー財団と、世界の政財界のリーダーの集う世界経済フォーラムが、アメリカの大手コンサルティング企業マッキンゼー・アンド・カンパニーの協力のもとに発表した報告書『ニュー・プラスチック・エコノミー』である。
世界のプラごみに関する知見の多くは、この報告書によっている。さらに、この報告書はプラごみ対策として3段階の取り組みも提案している。大雑把にいうと、「リサイクルの普及促進」、「石油利用を削減するためのイノベーション」、「自然界にプラごみが流出することのリスク削減」である。いち早くプラごみの問題点を洗い出し、そのトータルでの対策も提案した『ニュー・プラスチック・エコノミー』は、今年6月のG7サミットで英・仏・独・伊・加の5カ国が揃って提案した「海洋プラスチック憲章」の土台にもなっている。これに対して、日本は「経済界などとの調整がついていないこと」を理由に、海洋プラスチック憲章をアメリカとともに拒絶した経緯がある。そのため、来年G20で各国に提案する予定の資源循環戦略では、これを上回る包括的で野心的なプランを示す必要があるが、それこそ国内での調整が来年までにつけられるかは不透明だ。
第二に、より重要なことは、『ニュー・プラスチック・エコノミー』の作成に、ロンドン廃棄物リサイクル局など欧米の公的機関だけでなく、多くの業種の名だたるグローバル企業が協力していることだ。そこにはアメリカの大手デュポンなど化学メーカーだけでなく、コカコーラやユニリーバ、ネスレなどの食品・飲料メーカー、さらにイケアなど家具メーカーも含まれる。さらに、グーグルやアパレル大手のH&M、生活雑貨販売を世界中で展開するフィリップスなどがエレン・マッカーサー財団を支援しているが、これらの企業のうち日本と縁があるのは、それぞれの日本法人を除けば、日産と提携しているルノーだけだ。欧米の巨大企業との関係を背景に、『ニュー・プラスチック・エコノミー』はプラごみ問題を環境保護の観点からだけでなく、新たな経済成長の起爆剤としても捉えている点に、最大の特徴がある。つまり、単に「エコ」を強調するのではなく、まして我慢や不便を強いるだけでもなく、「それが利益になる」と提案するからこそ、業種を超えて欧米の巨大企業を巻き込み、脱プラスチックの主流となっているのだ。(つづく)
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