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2018-11-28 00:00
中国の‘消費大国化’はアメリカ抜きのグローバル戦略か?
倉西 雅子
政治学者
米中貿易摩擦の最大要因は、中国が巨額の貿易黒字をため込む一方で、アメリカが貿易赤字に苦しむという貿易収支の不均衡にあります。このため、アメリカは、中国製品に対する関税率を引き上げるなど、立て続けに中国の貿易黒字削減に向けた措置を強化しておりますが、中国側も、貿易不均衡の批判を躱すために、自らの市場を開放し、輸入を拡大する方針を内外に表明するに至っています。その具体的な現れの一つは、11月5日から11日にかけて上海で開催された「第1回中国国際輸入博覧会」です。第1回という数字が示すように、中国にとりましては初の試みであり、この博覧会について、在日中国人コミュニティーの情報誌である『東方新報』は、(1)輸出型から消費型への転換、(2)閉鎖型から開放型への移行、そして、(3)中国によるグローバル化の推進の三つのシグナルが込められていると分析しています(11月22日付のダイアモンド・オンラインに掲載)。このシグナルからしますと、技術力に優る日本企業に商機も勝機もあるとする論調なのですが、果たして、この方針は、米中貿易摩擦を解消し、かつ、『東方新報』が予測するように日本企業にとりましてチャンスとなるのでしょうか。
JETROによれば、同博覧会における国別の最大の展示面積を占めたのが日本企業であり、米企業ではなかったようです。この事実から、目下、角を突き合わせている米中両国の異なる思惑が推測されます。その一つは、中国側が同博覧会を開催した目的は、対米黒字の削減ではなく、アメリカ抜きの中国中心の‘グローバル化’を進めようとしているというものです。仮に、対米譲歩としての輸出拡大であるならば、米企業に対してより積極的に参加を呼び掛けているはずなのです。そして、国別で日本国が最大の出展数を記録したとしますと、中国側の真のターゲットは、日本企業、否、その技術力を吸収するところにあるのかもしれません。そして、もう一つの推測は、トランプ政権の対中強硬方針により、米企業の多くが同博覧会への出展を見送ったと言うものです。言い換えますと、トランプ政権は、中国に対して輸入拡大を強く要求する一方で、本心では、中国経済との関係を断とうとしているとする憶測も成り立つのです。仮に、アメリカが本気で米企業による対中輸出拡大を目指しているならば、同博覧会で最大の展示面積を占めるのは同国の企業であったはずなのです。
展示面積からは、米中関係改善の徴候は見えてこず、むしろ、中国によるアメリカ抜きのグローバリズムの方向性が浮かび上がってくるのですが、中国の消費大国化が、日本国の輸出拡大のチャンスになるかと申しますと、長期的にはこれも怪しくなります。何故ならば、中国企業は、潤沢なチャイナ・マネーを駆使して既に東芝の白物家電分野などを買収し、消費財の生産能力、並びに、技術力を飛躍的に高めているからです。13億の市場を背景に中国企業による生産能力が高まれば、生産過剰が問題視されてきた鉄鋼分野のように、廉価な中国製品が日本市場にも流れ込んでくるかもしれません。また、中国が後押しをする形でグローバル化の一環である資本移動の自由化も促進されれば、規模の経済において優位に立つ中国企業は、ますますその資金力を背景に日本企業のM&Aに熱心になることでしょう。今般、ゴーン前会長逮捕事件により、仏ルノーによる日産の合併問題も明るみになりましたが、たとえブランド名は残ったとしても、近い将来、日本企業が実質的に中国企業となる事例が激増するかもしれないのです。中国市場の‘開放の扉’が開かれても、期待とは逆に、中国から企業、製品、資本等が他国市場に進出してくる可能性の方が高いのです(しかも、輸入条件として、貿易決済通貨に人民元を使用するよう求めてくるかもしれない…)。
結局のところ、中国の消費大国化は、必ずしも輸入増加に繋がるとは限らず、むしろ、アメリカから断念を求められている「中国製造2025」を、アメリカなしで実現するための戦略なのかもしれません。『東方新報』は、中国側が特に輸入品として関心を示したのは食品・農業分野であったと伝えており、工業製品では決してないのです。日本国政府は、同盟国であるアメリカとの関係を重視すると共に、中国の一帯一路構想とも結びついた自国中心の長期戦略を見抜くべきではないでしょうか(伝統的な中華思想から脱却できない中国こそ、‘自国ファースト’の権化…)。そして、日本企業も、中国の戦略に利用されぬよう、ここは、慎重に構えるべきではないかと思うのです。
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