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2018-11-23 00:00
(連載2)日本国政府の‘海外ファースト’のリスク
倉西 雅子
政治学者
第3に指摘すべきリスクは、不利な国際分業の固定化です。市場のグローバル化は、垂直的国際分業のみならず、水平的国際分業をも加速化させますが、それは、必ずしも、全ての諸国や国民に対して公平、かつ、利益となる体制の成立を意味するわけではありません。例えば、グローバル市場では、規模の経済が強く働きますので、日本国の場合には、国内では大企業であってもグローバルレベルでは中小企業となります。このため、近い将来、大企業は淘汰であれ外資による合併吸収であれ姿を消し、利益率の低い素材や部品提供の国、あるいは、観光地として位置付けられるかもしれません。また、グローバル企業群は、利益が最大化する国際分業体制の長期的な固定化を望みますので、この体制が崩れるような分業の再編、並びに、国レベルでの経済発展や独自の新産業創設に対しては否定的となりましょう(例えば、製造拠点国での賃金上昇は事業利益からすればマイナス要因であるため、現地の国民生活の向上にも後ろ向きに…)。
第4のリスクは、人材の流出です。グローバル市場の主要プレーヤーとなるグローバル企業群は、全ての国から最良の人材を集めることを願っています。このため、国家予算を投じて自国民に高いレベルの教育を施しても、その成果が自国の発展に還元されるとは限らないのです。グローバル企業群からしますと、義務教育過程であれ、各国の教育は自社のための人材養成、あるいは、選抜の場に過ぎず、国家の教育政策への‘フリーライド’こそが利益最大化の鍵です。また、個人負担による資格や技能制度の拡充も、社内教育のコストを下げるための方法の一つかもしれません。言い換えますと、国家レベルの教育は、人材の海外流出によって公費を費やすだけの意義が薄れてゆくのです。
第5に懸念すべき点は、資本移動の国際的な自由化によって生じる自国経済の全般的な外国支配です。株式会社制度とは、資金力を有する個人、あるいは、団体が経営権を握ることができるシステムです。国境を越えた資本移動が自由化されれば、自国内の企業の多くは、株式の取得によって外資系企業の傘下に入る可能性が高まります。さらに、近年、農業、漁業、エネルギー、並びにインフラ等分野でも民間企業の参入が目立っておりますが、資本移動の自由化と並行して民営化が行われますと、産業基盤や国民生活に直結する分野までもが国民の手を離れるかもしれません。‘現代の東インド会社’とも喩えられるような、民間企業による植民地支配が成立するかもしれません。
この他にも、人口大国にして共産主義国家である中国による政経一体化した覇権主義など、問題は多々ありますが、このまま日本国政府が‘海外ファースト’の方針を貫けば、日本経済は弱体化するでしょうし、最悪の場合には、海外発の恐慌の波に攫われるかもしれません。グローバル化がもたらす諸問題が明らかになった今日、むしろ、リスク管理の方向に向けた取り組みを要する時代が到来しているのではないでしょうか。この点からしますと、ファイアー・ウォールの再構築や内需の振興を含め、‘自国ファースト’の考え方は、グローバリズムに伴うリスクや危機に対する耐性強化という意味においても、方向性としては間違っていないように思えるのです。(おわり)
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