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2018-11-22 00:00
政治倫理を欠くトランプ氏との外交関係
中村 仁
元全国紙記者
ストロングマン(強権的政治指導者)という視点が、政治潮流で目立ちます。トランプ米大統領はその頂点にいます。政治学者やメディアは「政治指導者」と訳しています。政治倫理に欠け、指導者の資格がない人物が多く、「指導者」というのは、どうかと思います。安倍首相の外交政策の基軸は、トランプ氏と親密とされる関係です。そのトランプ氏は選挙で選ばれた米国の代表であり、数々の疑惑が浮上していても、内政問題であり、裁判でクロとされたわけでもありません。だからトランプ氏との関係を見直す必要はないというだけが正解なのか、少し考え直す必要があるのではないでしょうか。政治外交を専門にする識者にとっては、初歩的すぎる問題かもしれません。だから「問題を提起しなくていい」ということにはなりません。多くの国民にとって、政治倫理、道徳に欠けるトランプ氏との関係を日本はどう築いたらよいのかは、大きな関心事です。政治の専門家からの言及がほしいところです。彼らも「1強」の首相に遠慮してか、辛口のことはいいません。
米中間選挙で民主党が下院の過半数を取り戻し、上院では共和党が過半数を守ったものの、改選議席の過半数は民主党がとり、トランプ氏の政治手法が批判されました。トランプ氏は選挙直後、自分に不利なロシア疑惑の追及に積極的な司法省の長官を更迭し、自分に好意的な人物を長官代理に据えました。これはひどいです。疑惑解明に取り組んでいるモラー特別検察官への影響は必至でしょう。まるで、日本でいう指揮権発動(法務大臣による検察の捜査中止命令)に似ています。大統領に人事権があったとしても、権力の乱用です。自分はシロだというなら、徹底的に捜査させて、身の潔白を証明すべきです。トランプ氏に対しては、ロシア疑惑、脱税その他の疑惑、口止め料の支払い、乱暴な政治手法に多くの批判が起きています。「小学5、6年生の理解力しかない」、「最高指導者として資質を疑問視される」、「問題の根本は道徳観念のなさ」、「権力を乱用している」などと言われています。全米300紙が8月、自由な報道を守るために、一斉にトランプ批判の社説を掲げたのは異例のことです。そういうトランプ氏との関係をどうするのか。「これらは内政上の問題である。外交は内政不干渉が原則だから、トランプ氏が大統領の座にある限り、外交の相手として考えるべきだ」は、正論でしょう。しかし、正論であってもトランプ氏の権力乱用、乱暴な政治手法に問題があることは、匂わせないといけません。
次に「中露にしろ中南米にしろ、独裁的なトップが増えている。いちいち問題にしていたら、外交交渉はできなくなる」も、答えのひとつです。日本の国益を守るためには、どんな国とも外交関係を持っておく必要があります。独裁制では最高レベルの北朝鮮とも、交渉のきっかけを模索する必要があります。「ストロングマン(Strong Man)」という言葉が世界的なブームとなっていると、財務省の元財務官で国際通貨専門家の渡辺博史氏がコラム(読売新聞、2018年11月11日)で書いています。「独裁者が支配する非民主的政治構造の国だけでなく、普通選挙を経てトップを決める民主的な国でも台頭し、これまでと大きく異なる状況が生まれている」と、指摘しています。「相反する利害の調整に長い時間をとられることに国民がいら立っている」ため、「即断即決を謳い文句にする人物への待望論が起きている」と。ただし、「政治に徳性が必要とされるのに、ストロングマンが賢人である確率は相当に低い」と、渡辺氏はみています。
政治的徳性、政治倫理に欠ける人物が最高権力を握ることが多い時代になりました。米国についていえば、トランプの傍若無人の政治手法には目をつぶるしかないのでしょうか。日米関係の維持を優先したいあまり、言うべきことも言わないというのは困ります。米欧からブーイングが激しいプーチン露大統領に対しても、日本の首相は遠慮して、辛口のことは言いません。トランプ氏はG7(先進主要国)体制、自由貿易体制の破壊者であり、地球環境保護の軽視といい、日本の国益にとっても、有害な政策を好んで進めようとしています。「戦後最長任期の総理」が視野に入ってきたというのですから、首相には国際的に評価される発言をもっとしてほしいと思います。
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