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2018-11-09 00:00
(連載2)日中通貨スワップ協定再開の危うさ
倉西 雅子
政治学者
融通枠を10倍にまで拡大させた日中スワップ協定再開の評価については、その目的自体が不明であり、上述したように、事実認識が全く異なる凡そ二通りの擁護論があるのですが、何れの説であっても、日本国側にとりましては、プラス面ばかりを期待できるわけではありません。
第一の説では、日本国側の短期的な経済利益優先の方針は、アメリカに対する背信行為となり、政治経済両面における日米関係の悪化が懸念されます。日米通商協定交渉にあってもアメリカの態度は硬化し、日本国に対して妥協どころかさらに厳しい要求を突き付けてくるかもしれません。中国市場への進出は果たした日本企業も、中国共産党による厳しい監視下に置かれるのみならず、米中貿易戦争に起因する景気減速の煽りを受けて事業収益は赤字となる可能性もあります。また、目下、上海や深センの株式市場では株価は下落傾向にありますが、欧米諸国の資本が引き上げる中、日本国の金融機関が最後に‘ババ’を引くことにもなりかねないのです。
第二の擁護論は、凡そ発生が確実視されている損失に対する対処法となりますので、邦銀の損失を最小化、最低限に抑えるための措置に過ぎません。つまり、最初の前提からしてマイナスから始まる説であり、到底、ウィン・ウィン関係として絶賛し得るものではないのです。もっとも、アメリカとの関係については、邦銀等の救済に目的を限定することを条件にアメリカも容認しているともされ、前者よりは、両国間の関係に悪影響を及ぼす度合いは低いかもしれません。
どちらの説が正しいのかにつきましては、今のところ、的確に判断するだけの十分な情報がないのですが、少なくとも、日中通貨スワップ協定の再開は、両国のルーズ・ルーズ関係に終わるケースも想定されます。日米同盟に安全保障を大きく依存し、経済面においても重要な貿易相手国である米国は、既に中国との間で対中貿易戦争の只中にあり、こうした状況下での日本国の親中路線への転換は、安全保障面のみならず、経済面においても必ずしも日本国側に利益をもたらすとは限らないのではないかと思うのです。(おわり)
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