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2018-11-08 00:00
(連載1)日中通貨スワップ協定再開の危うさ
倉西 雅子
政治学者
日本国の首相としては7年ぶりの公式訪問となる安倍首相の訪中の成果については、賛否両論が渦巻いているようです。評価ポイントとして挙げられているのは、(安全保障分野はともかくとしても)対中協力によって日本国側も経済的利益を得ることができるとする点です。しかしながらこの実利論、中国を取り巻く国際環境からしますと、実利どころか日本国側の損失になりかねないリスクが潜んでいるように思えます。
とりわけ、その評価が分かれるのは日中通貨スワップの再開です。この件については、アメリカが中国を高関税政策で追い詰めたにも拘わらず、同盟国である日本国が敵国に逃げ道を準備するような行為として、ネット上では批判を浴びていました。この批判に関しては、以下の二つの全く正反対の視点からの擁護論があります。
その一つは、日中両政府の公式の見解であり、それは、アメリカからの対中投資の減少を日本からの投資で補いたい中国の意向と、13億の市場において事業を展開したい民間企業を抱える日本国側の要望が一致したというものです。つまり、凡そ3兆円のスワップ枠は、いわば、同市場で既に融資業務を実施している邦銀を介して政府保証の役割を果たすという説明であり、日本企業の中国進出を金融面から支えるとされています。この説明では、今後、中国経済は、日本国の支援を受けることでアメリカからの経済制裁を凌いで順調に発展する一方で、日本国企業も、中国政府の後ろ盾を得て同市場で事業を拡大させるというものです。この側面だけを切り取れば、確かに、両国間にはウィン・ウィンの関係が成立するようにも見えます。
それでは、もう一つの擁護論というのは、どのようなものなのでしょうか。それは、「日本国政府は、既に中国経済からの撤退を決意しており、凡そ3兆円の通貨スワップ枠は、中国市場で人民元建パンダ債発行によって現地通貨での融資を実施している邦銀を救済するために準備されている」と言う説です。アメリカの締め付けによって中国経済は程なく崩壊過程に入り、人民元建て債権が回収不能となった邦銀も経営危機に陥るので、今般、スワップ協定を再開すれば、これらの邦銀が中国の中央銀行が日銀に提供する人民元で速やかに手当てできると説明されています。邦銀の融資先は、中国企業のみならず、現地で事業を行っている日本企業も多く、通貨スワップは日本企業救済策となるのです。一方の中国側も、外貨不足によるデフォルト危機を日銀によるハードカレンシーである円の提供で緩和できますので、この説でも、両国間にはウィン・ウィン関係が成立します。(つづく)
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