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2018-11-07 00:00
疎外されるイタリアのリスク
岡本 裕明
海外事業経営者
イタリアが厳しい立場に追いやられています。6月にポピュリズム政党「五つ星運動」と極右の「同盟」による連立政権に、政治経験ゼロのジュゼッペ・コンテ首相が就任しました。その内閣が作り上げた2019年度予算案は、歳出が2.4%増えるというものであります。ポピュリズム政党ならではの予算案といってよいでしょう。ところがイタリアはEUに加盟する以上、EUのルールに従わねばなりません。それを監視する欧州委員会はこの予算案にいちべつも与えず、否定して差し戻しました。ところが、コンテ首相は「この予算が出来た過程は容易ではない」とし、見直しを拒否したため、欧州委員会との間に明白な断絶が出来てしまいました。
欧州委員会は、仮にイタリアが言うことを聞かなければ強権でもってさまざまな罰則を科していくことになるのですが、イタリアはそれを黙って受け入れるのでしょうか?かつて世界大戦をした時、一種の疎外感からくる爆発的な反動があったのを思い出してしまいます。国際ルールは世の中を縛り上げ、極めて均一でバランスの取れたものをつくりあげようという立派な理念が先行するため、その理念に達成できない国家は不良化するか、離脱するかの選択をとるしかありません。アメリカが次々と過去の協定や縛り、連携関係を見直し、脱退し、破棄し続けるのは、その縛りが「国家にとってふさわしくない」という強い信念があるからでしょう。
TPP11が発効に向かい着実に歩を進めています。すでに6カ国が批准し、年内には発効するとみられており、いよいよこの巨大な経済連携がスタートしそうです。しかし、多分ですが、何年か経つと運用上の問題やひずみは必ず生まれてきます。それはスタートの時には同じところに立っていても、時間がたつと必ず差が生まれるためで、「遅れが出た国家は不満を呈する」というのは常套であるといってもよいでしょう。イタリアの場合も、EUという厳しい規律に音を上げているように見えます。ギリシャも苦しい経験をしましたが、イタリアの場合はその経済規模はギリシャの比ではありません。同時に進む英国のEU離脱交渉も含め、連携と歪み、そこからの綻びは避けられないのかもしれません。そう捉えればトランプ大統領が北米の自由貿易協定、NAFTAを破棄し、USMCAという新協定を締結したのは機能不全、ないし、時代にマッチしなくなった内容を見直すという意味で、健全なアプローチだったともいえるのでしょう。
EUはその金融システムを含め、根本的問題点が多いとされています。しかし、あまりにも巨大な組織と化し、身動きが取れなくなり、システムそのものを見直す余地すらないという、欧州らしい問題を作り上げているとも言えます。欧州の大戦がなぜ起きたのかといえば、独仏英という強大な国家間に生まれた裂け目が広がったことが、その背景にあります。だとすれば、イタリアや英国の動きを見ていると、欧州の危機を予感させるものすらあります。TPP11も追加参加国が出てくる勢いですが、見直し条項を設けておかないと、機能不全に陥るリスクを持ち合わせる可能性が高いと思います。一緒にずっと手をつないで渡れる橋はないのであります。国家は常に理想を高く掲げますが、その崇高さゆえに理想が高ければ高いほど思わぬしっぺ返しが来るといえるでしょう。
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