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2018-11-02 00:00
(連載2)中国はなぜいま少数民族の弾圧を加速させるか
六辻 彰二
横浜市立大学講師
この状況下、再教育キャンプを合法化することは、中国政府にとって「アメリカは人権を政治的に利用している」、「過激派を取り締まる法律を策定する権利はどの国家にも認められているはずなのに、それさえもアメリカは自分が気に入らなければ批判する」、「理不尽なのはアメリカの方だ」というメッセージを世界に発することになる。つまり、再教育キャンプに法的根拠を与えることで、中国は開発途上国での支持を固めようとしたといえる。
このタイミングで再教育キャンプが合法化された第二の理由は、トルコへの圧力である。中国にとってウイグル問題はイスラーム世界での評判にかかわるアキレス腱だが、なかでもウイグル人と民族的に近いトルコは、中国のウイグル政策を批判し続けてきた。トルコの歴代政権のなかでも現在のエルドアン大統領は、中国によるウイグル弾圧を「大量虐殺」と呼んだことさえある。しかし、そのトルコは現在、四面楚歌の状態にあり、そのなかで中国との関係改善を模索している。NATO加盟国でありながら、国内の人権問題やシリア内戦でのクルド人支援をめぐり、トルコはアメリカとの関係が悪化してきた。また、EUを率いるドイツとは歴史的に関係が深いものの、ドイツ国内のトルコ系移民をめぐり、やはりギクシャクしている。欧米諸国との関係が悪化するなか、トルコはシリア内戦の処理をめぐってロシアやイランとの協力を進めてきたが、シリア反体制派の最後の拠点となっている北西部イドリブ攻撃をめぐり、ロシアとの関係にも隙間風が吹き始めている。そんななか、とどめのようにトランプ政権がトルコ製鉄鋼製品の関税を引き上げたことをきっかけに、トルコ経済は一気に冷却化。その結果、エルドアン政権は「中国との貿易を増やすこと」を掲げ始めたのである。
米ロの力をそれぞれ利用しながら綱渡りを演じ、実際の国力にそぐわない強気の外交を展開してきたエルドアン大統領だが、各国との関係が怪しくなるなか、中国に接近しようとしているのだ。この状況下、中国はいまだにトルコのラブコールに応えようとせず、むしろ再教育キャンプを合法化することで、ウイグルでの弾圧を正当化している。これに加えて、中国政府はハラル(豚肉やアルコールなどムスリムが避けるべき食材を用いない食品の総称)に反対するキャンペーンをウイグルで強化している。イスラームの食文化の否定は、再教育キャンプに法的根拠を与えることと並んで、新疆ウイグル自治区を漢人の土地にする取り組みの一環といえる。イスラーム世界における中国批判の急先鋒であるトルコが中国への接近を画策するなか、中国政府がこれまでより踏み込んだウイグル弾圧に着手したことは、トルコに対して「もし中国との取り引きを増やしたいのであれば、今後ウイグルの件に口出しするのは控えなければならない」というメッセージになる。つまり、中国は簡単にトルコのラブコールを受け入れるのではなく、この期に乗じてトルコを封じ込めにかかっているのだ。
これに対して、現在のところ、他のイスラーム諸国と同様、トルコ政府から再教育キャンプの合法化に関する公式のコメントは出ていない。こうしてみたとき、中国政府が新疆ウイグル自治区の再教育キャンプに法的根拠を与えたことは、一見ただイスラーム勢力の取り締まりを強化するもののようでいて、開発途上国、とりわけイスラーム諸国からの批判を出にくくする外交的な試みといえる。これに対して、アメリカやトルコが仮に批判を強めても、ウイグル人のために、外交的非難以上の具体的なアクションを起こすことは想定しにくい。したがって、どう転んでもウイグル人の人権状況が改善する見通しは暗いと言わざるを得ないのである。(おわり)
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