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2018-11-01 00:00
(連載1)中国はなぜいま少数民族の弾圧を加速させるか
六辻 彰二
横浜市立大学講師
中国政府は10月10日、これまで存在を否定していた「少数民族ウイグル人を収容する事実上の強制収容所」である「再教育キャンプ」を、社会復帰を促すための「職業訓練センター」として法律に明記したことを明らかにした。少数民族への弾圧が強化されることは習近平体制の強権化を大きな背景にするが、それがこのタイミングで行われたきっかけには、アメリカとの対立やトルコへの圧力といった国際的な要因があげられる。「再教育キャンプ」とは「過激思想にかぶれた」とみなされるウイグル人を拘束し、共産党体制を支持する考えに改めさせる強制収容所で、2018年5月段階で100万人以上が収容されているとみられる。
約1,100万人のウイグル人は中国の少数民族のうち最も人口が多く、そのほとんどが西部の新疆ウイグル自治区に暮らしている。大多数がムスリムのウイグル人の間には、漢人・共産党支配への反感が根強くあり、1990年代からは分離独立運動やイスラーム過激派の台頭もみられる。これまで中国政府は、「新疆では信仰の自由が守られている」と強調し、分離独立を求める勢力を「テロリスト」と呼んで取り締まりを正当化してきた。歴代の国家主席と比べても習近平国家主席は権力を絶対化しようとしており、その一端として少数民族への取り締まりも強化されている。その結果、「テロ対策」としてウイグル人のDNAや虹彩が採集されるなど、新疆ウイグル自治区は巨大な監獄と化しており、再教育キャンプはその象徴となってきた。
ただし、中国政府はこれまで再教育キャンプの存在そのものを否定してきた。それが一転して法的根拠を与えたことは、国策としての「反体制的な少数民族の管理」を、これまで以上に進める意志を内外に示す。とはいえ、既に国際的に高まっていた批判を公然と無視するものだ。中国はなぜこのタイミングで再教育キャンプに法的根拠を与えたのか。そこには大きく二つの理由があげられる。第一に、アメリカとの関係悪化だ。貿易戦争だけでなく、中国製スマートフォンに情報漏洩の危険があるとFBIやCIAが注意喚起するなど、米中対立がエスカレートの一途をたどるなか、9月21日にポンペオ国務長官は新疆ウイグル自治区での人権侵害を批判。これ以来、アメリカはしばしばウイグル問題を取り上げてきた。中国がこのタイミングで再教育キャンプを合法化したのは、アメリカの「人権攻勢」に抵抗するためとみられる。
なぜ再教育キャンプを合法化することがアメリカへの抵抗になるのか。ここで、やや面倒だが、前提として4点ほど確認する必要がある。(1)アメリカをはじめ欧米諸国の政府は人権や民主主義の重要性を強調するが、外交的に関係の悪い国に対して、そのトーンは特に強くなる(中国、キューバ、イランなどの人権問題は頻繁に取り上げられる一方、インド、コロンビア、サウジアラビアなどでのそれは不問に付されやすい)、(2)友好国の国内問題に口を出さないことは現実の外交の観点から当然かもしれないが、しばしば先進国から「説教される」立場にある大多数の開発途上国の目からみて、それが「先進国のご都合主義」と映っても不思議ではない、(3)さらに、開発途上国には「国家独立のシンボル」でもある法律の策定が外部からの圧力や干渉にさらされることへの警戒が強い、(4)ところで、中国の国際的な支持基盤は、今も昔も開発途上国である。実際、ポンペオ長官の声明以前、「アメリカ第一」のトランプ政権は中国の人権問題に大きな関心をみせていなかった。つまり、トランプ政権は対立が激化する中国の国際的イメージを低下させるためにウイグル問題を強調し始めたわけだが、これは「人権を本心から尊重しているから」というより、露骨に「手段として人権を利用するもの」である。(つづく)
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